ねざめ堂

アニメ・映画・音楽

映画

『インファナル・アフェア』感想:香港と中国の緊張関係の行方

ひさしぶりに『インファナル・アフェア』を観返したので、簡単な感想を書いておきます。 2002年公開の香港映画ですが、2023年のいま観ると、けっこうやるせない気持ちになる映画でした。 (以下『インファナル・アフェア』と、リメイク作品『ディパ…

『リーサル・ウェポン』感想:1987年 のベトナム戦争映画

先日、子供のころ大好きだった『リーサル・ウェポン』をウン十年ぶりに観る機会がありました。 www.youtube.com すごく楽しめたし、昔はわからなかったストーリー構成上のポイントなどにも気づけたので、そのあたりをメモ的に書き留めておきます。ネタバレ注…

『アイリッシュマン』感想:ビジョンの消失

マーティン・スコセッシ監督『アイリッシュマン』(2019年)の感想です。 ド傑作でした。いろいろな面で素晴らしい映画だけど、とりわけ脚本がすごい。 スティーヴン・ザイリアンって作品ごとの当たり外れが激しい人なので、事前に名前を見たときはちょっと…

『ドリーマーズ』感想(改訂版):アイム・セット・フリー

数年前にアップした、ベルナルド・ベルトルッチ監督『ドリーマーズ』(2003年)感想記事の改訂版です。元記事の文意は変えないままに、読み辛いと感じたところに手を入れました。 本文中では『ドリーマーズ』にくわえて、ジャン・コクトー『恐るべき子供たち…

『ハウンター』感想:抑圧の連鎖と、その終焉

ヴィンチェンゾ・ナタリ監督『ハウンター』(2013年)の感想です。 近年ではドラマでの活動が目立つナタリにとっての、いまのところ最後の「劇場用映画」(この定義も揺らいでいるのでカギ括弧つき)。 Haunter Official Trailer #1 (2013) - Abigail Bresli…

マーティン・スコセッシ:ビジョンの拡大と収縮(後編)

※後編では『ディパーテッド』を中心に、21世紀に入ってからの作品について見ていきます。前編の冒頭で挙げた諸作品のネタバレをしていますので、ご了承ください。

マーティン・スコセッシ:ビジョンの拡大と収縮(前編)

◯前提:「スコセッシ的物語」の原型 マーティン・スコセッシは、ギャングやボクサーや救命士や宣教師といったキャラクターたち、あるいはラスベガスやウォール街、19世紀末ニューヨークの社交界といったコミュニティなど、じつに多彩な題材をとりあげて映画…

『マザー!』感想:「アロノフスキー的物語」の発展型

ダーレン・アロノフスキー監督『マザー!』(2017年)の感想です。 mother! movie (2017) - official trailer - paramount pictures アロノフスキー監督については、長編デビュー作『π』(1998年)から『ノア 約束の船』(2014年)時点までのキャリアをざっ…

『スカイライン -征服-』感想:未知との遭遇(反転バージョン)

アマゾンプライムに入っていたので、なんとなく観てみた映画『スカイライン -征服-』(2010年)。 映画『スカイライン-征服-』予告編 エイリアン侵略もののB級SF映画なんだけど、これ『未知との遭遇』(1977年)の反転バージョンなんですね(以下『スカイラ…

『八つ墓村』感想:戦前と戦後のせめぎ合い

脚本家・橋本忍の訃報をきっかけに、『八つ墓村』(1977年版)をひさしぶりに観返してみました。 八つ墓村 『羅生門』や『七人の侍』、『砂の器』も手掛けている人なのになんで『八つ墓村』?という感じですが、この映画の脚本が橋本さんだということを恥ず…

『ジャッキー・コーガン』感想:「アメリカは国家じゃない、ビジネスだ」

アンドリュー・ドミニク監督『ジャッキー・コーガン』(2012年)の簡単な感想です。ネタバレありです。

『スカーフェイス』感想:「競争」と「共同体」の挟み撃ち

ギャング映画の傑作『スカーフェイス』(1983年)の感想です。 Scarface (1983) Blu-Ray Release Trailer HD 監督:ブライアン・デ・パルマ、脚本:オリバー・ストーン、主演:アル・パチーノ、音楽:ジョルジオ・モロダー… と、メインスタッフやキャストの…

ダーレン・アロノフスキー:「自分」という地獄

最新作『マザー!』の日本公開が中止になってしまったダーレン・アロノフスキー監督*1。いったんは封切り日までアナウンスされていたんですが...。 (追記:『マザー!』感想書きました) mother! movie (2017) - official trailer - paramount pictures こ…

『10 クローバーフィールド・レーン』雑感

劇場公開時に見逃していた『10 クローバーフィールド・レーン』(2016年)をようやく観たので(面白かった〜)、感想というか、この映画にまつわる雑感です。 傑作だった前作『クローバーフィールド』(2008年)は、「疑似ドキュメンタリー形式で作られた怪…

『エレヴェイテッド』感想:ふたつの常識の衝突

ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の短編映画『ELEVATED エレヴェイテッド』(1997年)の感想です。前回の『スプライス』感想記事のオマケ的な位置づけですが、この記事単体でも読めるようになっています。 ネタバレがありますので、ご注意ください。 ◯ふたつの「…

『スプライス』感想:抑圧と反発の連鎖

ヴィンチェンゾ・ナタリ監督『スプライス』(2009年)の感想です。 この監督は『キューブ』だけの一発屋扱いを受けてしまうことが多くて、実際『スプライス』も興行的には恵まれなかった映画。 …ではあるんですが、でもこれは『ザ・フライ』とか『インビジブ…

『バージニア・ウルフなんかこわくない』感想:世界の底は抜けている

『バージニア・ウルフなんかこわくない』(映画版 / マイク・ニコルズ監督 1966年)のネタバレ感想です。 ◯ 超有名作品ですが、恥ずかしながら私はタイトルと「なんか派手な夫婦喧嘩の映画でしょ?」ぐらいの予備知識しか持たずに観始めてしまい、結果的にか…

『Dolls ドールズ』感想:人が向きあうことの困難さ

北野武監督『Dolls ドールズ』(2002年)の感想です。 じつはこれ、長年「北野監督のなかではイマイチだな〜」という印象をもっていた映画だったんですが、先日の深夜テレビでやっていたので久々に観てみたら、思いのほか良くてびっくり。よくいわれることで…

『ゴーン・ガール』感想  ~「外面」が勝利する世界

デヴィッド・フィンチャー監督『ゴーン・ガール』(2014年)の感想です。この映画については、公開当時に記事を書いたんですけど↓ 軟着陸は可能か? ~『ゴーン・ガール』感想 今回の文章は、そのときボツにしたバージョンです(さいきん文書フォルダを整理…

『淵に立つ』の浅野忠信をみて考えたこと

『淵に立つ』(公式サイト)を観た。素晴らしかった。「夫婦や親子といってもやっぱり理解しあえない他人同士だし、そういう人たちがなんか一緒に暮らしてる家族って不思議」という映画で、でも「しょせんは家族なんて」みたいな幼稚な露悪趣味は感じさせず…

『パルプ・フィクション』感想 〜ストーリーとテーマの「ズレ」が生む気持ち良さ

クエンティン・タランティーノ監督『パルプ・フィクション』(1994年)を超ひさびさに観直したので感想です。ネタバレがありますので、ご注意ください。 ◯ストーリー:着地点なし 『パルプ・フィクション』はいちおうクライム・ムービーの体裁をそなえてはい…

『菊次郎の夏』感想 ~「あの世」からの生還

北野武監督の『ソナチネ』(1993年)と『菊次郎の夏』(1999年)を比較した記事を以前書いたことがあるのですが、 北野映画、「遊び」の意味の変遷 ~『ソナチネ』『菊次郎の夏』感想 今回は、その文章には盛り込むことのできなかった事柄を掬い上げた記事で…

『クリーピー 偽りの隣人』感想:「本当はつながってないよ、人間なんて」

楽しみにしていたのに何かとタイミングがあわず、先日やっと観てきた『クリーピー 偽りの隣人』。 www.youtube.com 大傑作でした。ひさびさの「ジャンルから逸脱するジャンル映画」を撮る黒沢清!バカでかい掃除機最高!!! 以下、ネタバレ感想です。 ◯秩序…

『アウトレイジ』と『アウトレイジ・ビヨンド』の面白味の違い

ふと思い立って、公開当時に映画館で観たきりだった北野武監督『アウトレイジ』(2010年)と続編『アウトレイジ・ビヨンド』(2012年)をまとめて鑑賞。 続けて観たら、シリーズ1作目と2作目ではけっこう違う種類の面白味を追求していることに気付いたので…

『ワールド・ウォー・Z』(小説版)~中心のない悪夢

世界ゾンビ大戦小説『ワールド・ウォー・Z』を今ごろ読んだので感想です(原書:2006年 日本語版:2010年出版)。著者のマックス・ブルックスって、あのメル・ブルックスの息子なんですね。びっくり。 小説とは別物だった、ブラッド・ピット主演の映画版(20…

『トウキョウソナタ』感想:都市に踏みとどまる「赤い服の女」

昨年の『岸辺の旅』に続き、今年も黒沢清監督の新作が2本も観られる!嬉しい。 まず『クリーピー』(公式サイト )は6月公開。最近、一足先に観た人たちの「やべえ!」というリアクションがちらほらと視界に入ってきてイライラMAXです。はやく観てえ...。…

「ファミリー」映画としての『オーシャンズ12』

景気の悪いことが多くて、パーっと豪華な娯楽映画が見たい気分になったので、ひさびさに『オーシャンズ12』を鑑賞。 これを3週間で撮影してしまうソダーバーグ!クルーニーとブラピが並んだときの無敵のゴージャス感!なんか色々と別次元です。ハリウッドす…

双方向の侵蝕 ~『ベニスに死す』感想

お正月に久々に観返したら、やっぱり「エエな〜」となったので、むかし他所のサイトに投稿した感想文をちょっといじって転載(小説じゃなくて、ルキノ・ヴィスコンティの映画版の感想です)。

ダイ・ハード老人に戦慄する ~『ザ・シークレット・サービス』感想

先日の深夜に地元のテレビ局で放映されていたから…というローカルな理由で、『ザ・シークレット・サービス』(1993年 ウォルフガング・ペーターゼン監督 クリント・イーストウッド主演)*1のネタバレ感想です。 ペーターゼン監督の映画って、超大作になると…

良いニュースと、悪いニュースがある。 ~『パンチドランク・ラブ』感想

ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『インヒアレント・ヴァイス』が公開中。 映画『インヒアレント・ヴァイス』オフィシャルサイト 原作トマス・ピンチョン(おお)、音楽は今回もジョニー・グリーンウッド様。え、CANの『ビタミンC』なんて使ってる…