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『スカイライン -征服-』感想:未知との遭遇(反転バージョン)

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 アマゾンプライムに入っていたので、なんとなく観てみた映画『スカイライン -征服-』(2010年)。

 


映画『スカイライン-征服-』予告編

 

 エイリアン侵略もののB級SF映画なんだけど、これ『未知との遭遇』(1977年)の反転バージョンなんですね(以下『スカイライン』『未知との遭遇』のネタバレしてます)。

 『未知との遭遇』の主人公が取り憑かれてしまう、宇宙船が発する「謎の光」。これは「映画づくり」のメタファーであるよ…というのはよく知られた解釈のひとつです。

 宇宙人との交信を媒介する学者役として、フランスの名監督、フランソワ・トリュフォーをわざわざ招聘しているあたりからも、この解釈にはそれなりの妥当性があると考えて良いと思います(メタファーを一対一の意味関係に固定することのアホらしさは置いておくとして)。

 ラストで主人公は、宇宙人たちと共に映画づくりの世界に旅立っていくんだけど、そのように夢を追いかけることの代償として、彼は自分の家庭を崩壊させています。

 「父と子の関係(の断絶)」はスピルバーグ映画でおなじみのテーマだけど、『未知との遭遇』では、そのドラマが父親の立場から描かれているんですね(これを逆転させたのが『E.T.』)。

 それで、『スカイライン』でもやっぱり「謎の光」が人々に取り憑きます。この光を目にした人は、宇宙人の言いなりになって脳を吸い取られてしまうんだけど、ここでの宇宙人とか宇宙船っていうのはベタに考えて、世界中から人材を引き寄せては使い捨てていく映画業界=ハリウッドなのであろうと。

 『スカイライン』の主人公は、ハリウッドで成功した俳優である友人から、映画業界での仕事をオファーされています。いっぽうで、恋人の妊娠が発覚し、彼は「映画業界での成功を追うか、地元で家庭を築くか」の二択を突きつけられる。映画作りか家庭か…という『未知との遭遇』と同じ状況ですね。

 そうこうしているうちに宇宙人が襲来するんだけど、主人公と友人の俳優は「海まで行ってボートに乗って、とにかくロサンゼルスを離れよう」と頑なに主張します。

 彼らが立てこもっているマンションの外には宇宙船がウヨウヨ飛んでるので、無謀な計画に思えるんだけど、彼らは映画業界の関係者だけに、宇宙人(=ハリウッド)のヤバさを身に染みて知ってるんですね。だから理屈を超えて、とにかく少しでもハリウッド(ロサンゼルス)から離れたいという焦りを感じている。

 ハリウッドがらみの小ネタでは、主人公の恋人の「LAなんて大嫌い」というセリフとか、「ウォルト」という、いつも犬(=動物キャラ)と一緒にいる老人の存在なども挙げられます。

 くわえて、宇宙船と軍隊の交戦の様子を、望遠鏡と繋がったテレビ画面に映し出す…というシーン。これはモロに「映画の撮影」ですね。

 

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 最終的には、主人公は恋人とともに宇宙船に取り込まれて脳を吸い取られ、その脳は宇宙人の身体を動かすためのパーツに使われてしまう。

 でも恋人と、そのお腹にいる赤ちゃん…つまり「家庭」を守るために覚醒した脳が、逆に宇宙人の身体をのっとって反撃を開始します。ここで、映画作りのために家庭を崩壊させた『未知との遭遇』とは逆の展開が起きている。

 宇宙人の身体に人間の脳=ハートを備えるに至り、宇宙人への反撃を開始する主人公。ハリウッド映画の衣をまといつつ、ハリウッド批判を展開するこの映画そのもの。両者がイコールの関係にある業界メタフィクション、それが『スカイライン』なのですね(だからどうした、といわれると困ります)。

 いっけん光に満ちた結末のようにみえるけど、じつはスピルバーグらしく業の深い『未知との遭遇』と、そのダーク・バージョンのように見えて、最後には「家庭」にベクトルが振れる(意外とスタンダードな?)『スカイライン』。とくに期待せずに観たこともあって、思わぬ拾い物をしたような楽しさを味わえました。