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『インファナル・アフェア』感想:香港と中国の緊張関係の行方

ひさしぶりに『インファナル・アフェア』を観返したので、簡単な感想を書いておきます。

2002年公開の香港映画ですが、2023年のいま観ると、けっこうやるせない気持ちになる映画でした。

(以下『インファナル・アフェア』と、リメイク作品『ディパーテッド』のネタバレをしています。)

 

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この映画では、中国に返還された直後の90年代~00年代初頭の香港を舞台に、二人の主人公による「世界交換の物語」が描かれます。

トニー・レオン演じる警察官は、捜査のために、身分を偽ってマフィアの世界に潜入する。

いっぽうアンディ・ラウ演じるマフィアは、ボスの命令で情報を盗むために、警察官の世界へと潜入。

二人とも、自分にとって馴染みのある世界から、まったく正反対のルールが支配する世界へと移行するわけですね。

彼等は、自分にとって馴染みのない世界で与えられた任務をこなそうとしながら、同時に自分の元いた世界とのコンタクトを絶やさないようあがきます。

警察官はマフィアとして、マフィアは警察官として身分を偽りながらも、それぞれが元々持っていたアイデンティティをなんとか守ろうとするわけです。

この二人の主人公が立たされた立場を通じて象徴的に描かれるのは、00年代初頭の香港と中国の関係……

 

香港(民主主義+資本主義)と中国(権威主義)、どちらがどちらの体制を呑み込むか

 

という緊張関係です。

イギリス統治下で西欧型の発展をとげた香港と、当時はまだ現在のような経済大国とはほど遠い状況にあった中国、ふたつの体制=世界の対立。

どちらの側にも「相手の世界に呑み込まれてなるものか」という緊張感があった時代。この緊張感や怖れと同質の感情を、二人の主人公は感じ続けるわけです。

こうした両者の関係は、作中では「ソファとオットマン」の形で暗示されます。

新居に越してきたアンディ・ラウと、彼のフィアンセ。

ところが、注文したソファとオットマンのサイズが合いません。オットマンが、ソファに対して大きすぎる。

妻は困惑しますが、アンディ・ラウは「別にいいじゃないか」とばかりに、大きすぎるオットマンを強引にソファにくっつけてしまいます。

 

 

ベタな解釈をすると

  • ソファ=中国
  • 大きすぎるオットマン=経済的に繁栄する香港

ですね。

このシーンを見ると、キャラクターの立ち位置としては「アンディ・ラウ=中国サイド」という構図が頭に浮かびます。

ということは「トニー・レオン=香港サイド」?

(どちらがどちらでも根本的なテーマは変わらないですが。)

さて、あがきにあがく主人公の二人ですが、結局元の世界に戻ることは叶わず、一人は命を落とし、もう一人は永久に本来のアイデンティティを隠し偽りながら、自分にとっての「異世界」で生きていくことを与儀なくされます。

(原題の「無問道」は、この出口のない無限地獄のような状態を指します。)

たいへん優れた脚本の映画ですが、いま観ると辛い話です。

ちなみに、本作は舞台をアメリカに移し『ディパーテッド』(2006年)としてリメイクされました。

 

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マーティン・スコセッシによるリメイクでは、オリジナルにあった

「元いた世界から決定的に隔てられてしまった感覚」

が、あらたな文脈に移し替えて表現されています。

「9.11が起きる前のアメリカと、起きた後のアメリカの断絶」

です。

 

映画冒頭。2機のジェット機が飛来し、ツインタワーを思わせる人体が崩れ落ちる

 

このあたりの話は以前こちらの記事に書いたので、良かったら読んでやってください。↓

 

マーティン・スコセッシ:ビジョンの拡大と収縮(後編)

 

しかし『インファナル・アフェア』を観返して驚いたのは、トニー・レオンの滅茶苦茶なカッコよさ。

1962年生まれなので00年代初頭には40代のはじめですが、この時期に出た映画をみると、もう男としての絶頂期ですね。

インファナル・アフェア』『HERO』『2046』『ラスト、コーション』どれも色気がヤバい。

ヘテロ男性の自分の目から見ても、完全に女優陣の色気を食ってしまっています。すごい。

年末年始はトニー・レオン祭りしてみようかな?