雑記:U2、スフィア公演のレビューが出てきた話/ スコセッシの新作が20(金)公開
〇U2、スフィア公演のレビューが出てきた話
U2がラスベガスにオープンした新会場・スフィアにて敢行中の『Achtung Baby』レジデンシー公演。
前回、公演開始前の記事では、そのライブへの期待と不安(?)を書いてみました。
U2:UV Achtung Baby Live At Sphere は吉と出るか凶と出るか
(↑実質的には『Achtung Baby/Zoo TV』とは何だったのか? を再確認する感じの記事になっています。よろしくお願いします。)
スフィアでの公演は、9月末からスタート。
これがどうやら前代未聞のとんでもないライブになっている模様で、テレビやネットでも大量に映像が流れておりました。
(↓予備知識ゼロで体験したら恐怖を感じそうなオープニング)
「I'm ready for the what's next」という歌詞がこれ以上ぴったりくるステージングある……?
日本語のレビューもいくつか出てきています。
U2、「新時代のコンサート」でラスベガスを席巻 歴史的一夜の総括レポート | Rolling Stone Japan
やはり、まずは映像や音響の凄まじさに言及した記事が多いです。
(「第一報」的に公演のインパクトを伝えようとすれば、どうしてもそうなりますよね。)
そんな中、この記事はちょっとだけショーのコンセプト面にも触れていました。↓
(エルヴィスの映像を制作したマルコ・ブランビッラのコメント)
「ラスベガスでやるならエルヴィスを題材にして、アメリカ帝国の衰退をテーマにしようと。エルヴィスの死、そして彼の名声の絶頂と神話的なレベルでの追悼の類似性を描こうと考えたんだ」
U2がラスベガスの新名所「Sphere」に降臨! 巨大球体で繰り広げられた音楽とアートの規格外の融合|ARTnews JAPAN
ライヴの成否は未体験の自分にはわからないけど、とにかく還暦過ぎのベテランバンドが、こんなハイリスクの大実験に挑んだことに感動。
自分はU2の特別熱心なファンではないのですが、それでも、こんな巨大なことができるポップ・ミュージシャンは他にいないよなあと思います。
あるいは、こういう「巨大さ」は、時代にそぐわない20世紀的オールド・ファッションかもしれなくて、なおかつバンドはその点に自覚的である可能性もあります。
だから、『Zoo TV』でも資本主義の「なれ果て」として登場したエルヴィスの巨大なイメージが、20世紀アメリカ帝国の象徴として追悼される。
そして、それにとって代わるように、大自然や絶滅を危惧されている生き物たちの活き活きとしたイメージが会場の観客を圧倒する。追悼と再生の儀式?
〇スコセッシの新作が20(金)公開
いっぽう、こちらも「巨大」なスコセッシの新作が20(金)から公開されます。
(製作費2億ドル、上映時間3時間20分超え)
夏に宮崎駿の新作が、秋にはスコセッシの新作が映画館で観られるなんて……! 豪華すぎてバチが当たらないかしら。
みんな観るんだ! 次があるかどうかわからないぞ!
スコセッシの映画については、自分なりの視点から体系的に論じた記事を書いたことがあるので、よかったら読んでやってください。
ざっくりいうと、スコセッシは「ある特定のビジョンが周囲を呑みこみながら拡大していく」という型の物語をひたすら描き続けている監督だ……
という視点を軸に、この人の歴代作品を振り返っている記事です。
それで、今回の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』も「ひとつの時代の終焉」「時代を支配するビジョンの交代劇」を描いているのかな? という感じはするんですよね。
(ロバート・デ・ニーロ演じる、先住民族の財産を収奪するキャラクターについてのスコセッシのコメント↓)
「とても複雑。彼はまるで預言者。彼ら(白人)の時代が来たと信じている。『彼ら(先住民族のオセージ族)を助けよう。ゆっくりと死に向かわせよう。楽にそうさせてやろう。文明は行き来するものだ』と話す。(…)」
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』デ・ニーロ史上“最恐”キャラをスコセッシ&ディカプリオが語る!|MOVIE WALKER PRESS
「文明は行き来するものだ」
U2といい、スコセッシといい、20世紀の大御所たちが、20世紀的な巨大さを備えた作品を通じて、20世紀アメリカ的ビジョンの「終焉」と新たなる何かへの「入れ替わり」を描いている……
なんて、ネットから拾った情報の断片を適当にツギハギして「よしっ、わかった!」(©等々力警部)と勝手なストーリーをでっち上げるのはこの辺にしておきましょう。
(マジの雑な書き散らしですみません。)
ちなみに音楽好きとしても『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は注目ポイントがあって、ます一つは、音楽を担当したロビー・ロバートソンの遺作になってしまったこと。
スコセッシとは、ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』以来、じつに半世紀近くの付きあいでした。
ザ・バンドは、アルバムとしては『南十字星』がいちばん好きです。
「枯れた音楽に造形の深い若年寄バンド」として登場した彼らが、同時代的なレゲエやファンクっぽいフレーバーを取り入れたりしていて、すごくチャーミングなアルバムです。
スコセッシとのタッグで一番好きだったのは『シャッター・アイランド』。
ジョン・アダムズ、マックス・リヒター、ブライアン・イーノなどなど、選曲・編集センスが冴えわたってました。
もう一点、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』にはミュージシャンのジェイソン・イズベルが俳優として参加しているのも注目ポイント。
(ルーツ音楽に造形が深くて、デビュー時にやや若年寄っぽいイメージだった感じがロビー・ロバートソンと近い?)
映画ファンには、『アリー/スター誕生』のためにこの曲を書き下ろした人として有名かもしれません。
(歌っているのはブラッドリー・クーパー)
ところでこのジェイソン・イズベル、フェンダーからシグネイチャー・モデルのテレキャスターを出してます。
シグネイチャー・モデルのギターっていまいち魅力を感じないものもあるけど(ヘッドにサインが入ってたりとかね……)これはかなり評判良いです。
シグネイチャ―で定番なのは「アーティスト所有楽器の再現」。憧れのあの人と同じ楽器を手にできる! という嬉しさがありますね。
いっぽうこのモデルは、ジェイソンさんが今回の企画用に新たに提案した「ぼくのかんがえたさいきょうのテレキャスター」案に基いて作られたとのこと。
自分のファン以外にも幅広く使ってもらえるように……とのこだわりが詰め込まれているみたいで、使い勝手よさそう。
とくに、ヘッド側からトラスロッドを調整できるのがポイント高い! ヴィンテージ仕様の指板Rきつめのネックでこうなってるの、めずらしいんですよね。これ欲しいなあ。
……物欲で話が逸れました。
(でも、こんなふうにフェンダーのクラシックタイプのギターに惹かれるのは、消えゆく20世紀後半アメリカ文化へのノスタルジーかも?)
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はデイヴィッド・グランのノンフィクション(『花殺し月の殺人』)が原作ですが、この人の『ワガ―号:難破、暴動と殺人の物語』(未訳)もスコセッシとディカプリオのコンビで映画化が予定されているとのことです。
海外出版事情:歴史小説家デイヴィッド・グランがヒット連発 冷泉彰彦 | 週刊エコノミスト Online
さっき「次があるかどうかわからない」とか書いたけど、そして『キラーズ~』すら観てないのにあまりにも気が早すぎるけど、またスコセッシの新作が観られるのかも?
スコセッシは、一番好きな存命の映画監督。
なおかつ、過去の有名作(『タクシー・ドライバー』や『グッド・フェローズ』)よりも、21世紀に入ってからの作品のほうがはるかに良いと個人的には思っている、バリバリ現役の作り手です。
(私、レディオヘッドが『KID A』を出してからというもの、それ以前の彼らのアルバムが聴けなくなってしまったんだけど、その感覚にちょっと近いかもしれません。やはり2000年前後になにかしらの文化的な断絶があったとおもう。)
マジですごい80歳! 1本でも多くの新作が観られると嬉しいです。