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『きみの色』雑感:やっぱりアニメは「あらすじ」ではない

※ネタバレなしの雑感です

 

先日公開された『きみの色』。

これがめちゃくちゃに良くて、現時点で4回映画館に通ってるぐらい好きなんだけど、いまいち良さが言葉にできないのだよな……。

と思って感想記事を書きあぐねていたのですが、どうやらそういう風に感じているのは自分だけではない模様。

SNSをのぞいてみると、この映画が好きな人は高確率で「良さの言語化が難しい」的なことを言っている印象をうけます。

 

 

「変に色がつく言葉をあてはめたくない」って誠実な表現だなあ。

山田尚子監督に対しては、これまでのフィルモグラフィーからも

「この人は言葉ではなく映像で作品を組み立てる人なのではないか?(宮崎駿みたいに)」

というイメージを勝手にもっていたのですが。

今作ではとくにその傾向が極まっていて、シーンやカットのつながりも、言語的なロジックより、映像の連なりとして「正しい」かどうか、が重視されている雰囲気。

なんというか、超一流のモノホンのDJ、たとえば田中フミヤとかジェフ・ミルズとかが音でやっているのと似たことを映像でやっている雰囲気があるんです。

だから『きみの色』は、ストーリーを追うのではなくて、「そのシーンごと」に表出する美しさ、テクスチャ、感情の動きにうっとりと浸り、ときにハッとさせられる……

ということを繰り返しながら流されていたら、いつの間にかエンディングにたどり着いている、みたいな鑑賞の仕方が、個人的には気持ち良くて仕方ないです。

ほら、クラブで踊るときって、とくにミニマルテクノなんかだと、そのとき流れている音の気持ちよさに没入しているだけで、「オチ」とか「クライマックス」を待ち構えたりしないじゃないですか。それと一緒。

(ジャンルにもよるかもしれないけれど……。でも、スネアの刻みを早くしていってドッカーン! みたいなテンプレのクライマックスを何度も仕掛けられたら醒めますよね? 小手先のギミックに頼るんじゃねえと。)

そういう意味では、山田監督がかつて日常系アニメ(『けいおん!』)でやったことを思い切り先鋭化させたのが『きみの色』、という言い方もできるかもしれない(?)

 

関連記事:洋楽好きに「日常系アニメ」の魅力を布教してみた。

 

毎度のことだけど、こういう山田監督の資質にあわせた脚本を書ける吉田玲子もものすごいです。

だって、『猫の恩返し』とか『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』みたいな王道シナリオを書けちゃう人ですよ、この人。

そういう、物語づくりの型を知り尽くした達人が「山田尚子への当て書き」では、すっとぼけて型を破ってみせる凄さ。今回は「型を破る」よりも「脱臼させる」という表現のほうがふさわしい気もするけど。

(とはいえ『ヴァイオレット~』も、王道のストーリーに先鋭的なテーマを忍び込ませた、けっこう尖った作品だと私はおもっていますが。↓)

 

関連記事:『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』感想①:変えられる / 変わってしまうものとしての過去


話が逸れかけたけど、『きみの色』はそういうビジュアルオリエンテッドな作風なので、映像の気持ちよさがとにかく半端ないです。

冒頭に主人公の通っている学校の登校シーンが描かれるんだけど、ここがいきなりとんでもない。

たくさんの生徒たちが、バラバラに思い思いに、でも一斉にわーっ! と動く。そのエネルギー感。色彩やカットのうつろいのスピード。

ここで脳の気持ち良いツボを押されまくって「あっ♡ あっ♡」となった人は、あとはもうエンディングまで一直線でしょう。

そして、映画館を出たあともその気持ち良さが忘れられず、気が付けば翌週も劇場の前に立っている自分を発見する……立派なきみ中(きみの色中毒)患者の出来あがりです。

もうね、純然たる「体験型」アニメーション。

逆にいえば、ファスト映画的・金曜ロードショーの「ここまでのあらすじ」的感性とは真逆をいく作風なので、おもいきり人を選ぶ映画であることは間違いないです。

バックに東宝やら川村元気やらがついてる状況下で、よくこんなもの作ったよなあ。山田尚子、覚悟ガンギマリです。

(『天気の子』を作ったときの新海誠とおなじぐらいヤバいとおもう。やたら毒舌で他人の作品に噛みつく作り手っているけど、それよりも、新海・山田みたいに一見穏やかな人の方がはるかに過激なものを出してくることってあるよね……。)

とにかく「高校生たちによる青春バンドもの」というキャッチ―なフォーマットから想像される内容とは数光年かけ離れたことをやっている作品。

なので、鑑賞前はいったんすべての予想や期待をリセットして、極力フラットな状態でスクリーンと対峙することをおすすめします。

ツボにはまった人には、一生の宝物になることでしょう。本当に。

最後に勝手な希望をいえば、山田監督には『きみの声』『リズと青い鳥』みたいな作家性爆発路線と、『映画 聲の形』みたいながっしりとした原作を活かす路線の両方をつくっていって欲しいなあ、とおもいます。どっちも最高なんだもの。

 

関連記事:アニメは「あらすじ」ではない 〜 『たまこラブストーリー』感想 (ネタバレなし)

関連記事:『リズと青い鳥』雑感

 

 

〇すでに観た人向けのおまけ

『きみの色』の制作陣インタビュー記事で面白かったものを3本貼っておきます。

グザヴィエ・ドランの名前が出て「やっぱりね!」なインタビュー。ネットに出た関連記事では一番濃い内容かも。

 

www.pintscope.com

 

 

②「ボーン・スリッピー」を使うことになった経緯がめっちゃおもろい

 

www.banger.jp

 

 

③「すごく語弊のある言い方をするんですけど、ストーリーを追うだけが映画じゃないな、って(……)」

 

www.youtube.com

 

宮崎駿がどこかで

「腕の産毛が朝日を受けて光ったとか、そういうことで映画は名作になる。ストーリーなんかどうにでもなるんですよ」

みたいなこと言っていたのを思い出しました。出典なくてすみません。

 

『インファナル・アフェア』感想:香港と中国の緊張関係の行方

ひさしぶりに『インファナル・アフェア』を観返したので、簡単な感想を書いておきます。

2002年公開の香港映画ですが、2023年のいま観ると、けっこうやるせない気持ちになる映画でした。

(以下『インファナル・アフェア』と、リメイク作品『ディパーテッド』のネタバレをしています。)

 

www.youtube.com

 

この映画では、中国に返還された直後の90年代~00年代初頭の香港を舞台に、二人の主人公による「世界交換の物語」が描かれます。

トニー・レオン演じる警察官は、捜査のために、身分を偽ってマフィアの世界に潜入する。

いっぽうアンディ・ラウ演じるマフィアは、ボスの命令で情報を盗むために、警察官の世界へと潜入。

二人とも、自分にとって馴染みのある世界から、まったく正反対のルールが支配する世界へと移行するわけですね。

彼等は、自分にとって馴染みのない世界で与えられた任務をこなそうとしながら、同時に自分の元いた世界とのコンタクトを絶やさないようあがきます。

警察官はマフィアとして、マフィアは警察官として身分を偽りながらも、それぞれが元々持っていたアイデンティティをなんとか守ろうとするわけです。

この二人の主人公が立たされた立場を通じて象徴的に描かれるのは、00年代初頭の香港と中国の関係……

 

香港(民主主義+資本主義)と中国(権威主義)、どちらがどちらの体制を呑み込むか

 

という緊張関係です。

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雑記:U2、スフィア公演のレビューが出てきた話/ スコセッシの新作が20(金)公開

 

U2、スフィア公演のレビューが出てきた話

U2がラスベガスにオープンした新会場・スフィアにて敢行中の『Achtung Baby』レジデンシー公演。

前回、公演開始前の記事では、そのライブへの期待と不安(?)を書いてみました。

 

U2:UV Achtung Baby Live At Sphere は吉と出るか凶と出るか

 

(↑実質的には『Achtung Baby/Zoo TV』とは何だったのか? を再確認する感じの記事になっています。よろしくお願いします。)

スフィアでの公演は、9月末からスタート。

これがどうやら前代未聞のとんでもないライブになっている模様で、テレビやネットでも大量に映像が流れておりました。

(↓予備知識ゼロで体験したら恐怖を感じそうなオープニング)

 

 

「I'm ready for the what's next」という歌詞がこれ以上ぴったりくるステージングある……?

日本語のレビューもいくつか出てきています。

 

U2、「新時代のコンサート」でラスベガスを席巻 歴史的一夜の総括レポート | Rolling Stone Japan

U2がこけら落とししたラスベガス最新テクノロジー会場スフィアでライブを観た。コンサートそのものを次世紀に向けて変えてしまう想像を絶する体験。 (2023/10/13) 中村明美の「ニューヨーク通信」 |rockinon.com

 

やはり、まずは映像や音響の凄まじさに言及した記事が多いです。

(「第一報」的に公演のインパクトを伝えようとすれば、どうしてもそうなりますよね。)

そんな中、この記事はちょっとだけショーのコンセプト面にも触れていました。↓

 

(エルヴィスの映像を制作したマルコ・ブランビッラのコメント)

「ラスベガスでやるならエルヴィスを題材にして、アメリカ帝国の衰退をテーマにしようと。エルヴィスの死、そして彼の名声の絶頂と神話的なレベルでの追悼の類似性を描こうと考えたんだ」

U2がラスベガスの新名所「Sphere」に降臨! 巨大球体で繰り広げられた音楽とアートの規格外の融合|ARTnews JAPAN

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