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ねざめ堂

アニメ・映画・音楽

『たまこまーけっと』を振り返る 第7話

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 『たまこまーけっと』シリーズのネタバレがありますので、ご注意ください。

 

◯第7話『あの子がお嫁にいっちゃった』

 脚本:吉田玲子
 絵コンテ:内海紘子
 演出:石原立也石立太一
 作画監督池田和美

 

 スタッフの布陣が豪華ですが、シリーズ的にもターニングポイントにあたる重要回。

 ここ数話の感想で、『たまこまーけっと』全12話は商店街にスポットをあてると4つのパートに分けられる、ということを書いてきました。


・1話~4話   商店街の魅力をその内側から語る「安定期(その①)」
・5話~7話   商店街を外側との対比で検証する「転換期(その①)」
・8話~10話  商店街の魅力をその内側から語る「安定期(その②)」
・11話~12話 商店街を外側との対比で検証する「転換期(その②)」


 この第7話は、『たまこまーけっと』という作品自身によって「うさぎ山商店街」という場所・世界観が検証されるという、批評性の高いフェーズである「転換期(その①)」の最後のエピソードにあたります。

 あらためて「転換期(その①)」の流れをざっと振り返ると、まず、第5話(感想)で「作中のうさぎ山商店街はたしかにユートピアとして描かれるけど、その外側に出るといろいろと問題が出てくるよ」ということが提示されます。『たまこまーけっと』の世界観的にも、うさぎ山商店街はちょっと特殊な場所ですよ、という視点。

 続く第6話(感想)では「いくら商店街がユートピアでも、その内側の価値観だけで固まっていると ”迷信” や ”偏見” みたいな問題が出てくるよ」という問題提起がなされた後、「外側」の視点をもつ史織によって、商店街の「内側独特のモノの見方」が相対化されていく様が描かれました。外部との交通が遮断された、閉塞した共同体は空気が淀んでいくよ、という話。

 第5話・第6話ともに、うさぎ山商店街という中間共同体の「外側」を意識させるエピソードになっているんですね。そしてこれをうけて、第7話では商店街メンバーの「入れ替え」が描かれます。

 結婚して商店街の「外側」に出ていく銭湯の娘・さゆりと、入れ替わりに「内側」に入ってくる外国人の少女・チョイ。

 

◯さゆりとしおり

 豆腐屋のアフロ兄ちゃん(清水屋)の片思いの相手、うさ湯のさゆりさんが商店街から出ていくことは、演出的には第2話や第6話の会合シーンでの席ポジションで予告されていました。

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(上:第2話 下:第6話)

 商店街共同体の人々の輪から、ちょっとはみ出したポジションですね。

 『たまこまーけっと』では、共同体の「枠」をまたいだゆるやかなつながりの描写が重視されます。第7話で結婚して商店街を出ていくさゆりは、でも第10話のバトン部の晴れ舞台はちゃんと見にきているし、最終回でもお正月のおもちを買いに「たまや」を訪れている。

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 (左:第10話 右:第12話)

 そして『たまこラブストーリー』で「変化」に戸惑うたまこを元気づけたのも、商店街の内と外を自在に行き来するさゆりの姿でした。「変化」でそれまでの関係が途切れてしまうわけじゃない。関係を維持しようという意思さえあれば、外に出て行くことは「関係性のリンクの拡大」につながるんだ、という気付き(このあたりの認識は『Free! ES』とも共通します)。

 しょんぼりしていたたまこが、さゆりに出会って明るさを取り戻すくだりは、テレビシリースからのファンにとってはグッとくる良いシーンでした。

                    ◯

 このさゆりと似たポジションにいたキャラクターが、史織です。

 第6話の感想でも、史織はたまこたち4人グループのなかではちょっとビジター的なポジションにいる、という話を書きましたが*1、『たまこラブストーリー』では海外留学を決意する。距離的に思い切り共同体の外に飛びだしていくんですね。でもおそらく、たまこたちとの関係が切れるわけじゃない。

 くり返しになりますが、第3話の感想にも書いたように『たまこまーけっと』では共同体の「枠」をまたいだつながりがしばしば描かれます。第3話では「クラス」の、第10話では「部活」の枠をまたいだ交流が共同体の「内側」と「外側」で成立している(そのいっぽうで、同じ共同体に所属している者同士のディスコミュニケーションも描かれます)。

 

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 同様に、商店街共同体の「外側」に出ていった後のさゆりも、「内側」との交流を続けていく。

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 『たまこまーけっと』は商店街の素晴らしさを謳いあげているので、昔ながらの地域共同体の復活を推した作品、みたいにとられがちですけど、実際にはもっと多様な関係性をオファーしていると思います。共同体の枠内の交流は素晴らしいものとして描きつつ、その枠を超えた交流や、ゆるやかなつながりも同じぐらい大事だよね、という。

 そういう交流が、友達グループ・クラス・部活・商店街・国というさまざまなサイズの共同体の枠を超えておこなわれていく。それを端的に体現していたのが、結婚して商店街から出ていくさゆりであり、留学を決意する史織でした。

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 メガネ美女キャラはアグレッシヴに外に飛び出していく、の法則?(2人だけだけど)

 

◯ふたつの恋

 ここまでシリーズのなかでの第7話、という視点で文章をすすめてきましたが、エピソード単体でみたときのラブストーリーの側面もしみじみと良いですね。清水屋の失恋と、チョイの恋心。

 さゆりが結婚することを知った清水屋は笑顔で「幸せに、なってくださいね」。

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 さゆりは清水屋の様子をみてハッとした表情をみせるけど、余計なことは言わずに、ただ「ありがとう」とだけ答える。

 このあと、清水屋はエピソードの最後まで露骨に悲しそうな様子はみせずに、穏やかな表情を通します。ただ、清水屋の笑顔のカットのあとで、豆腐にはられた水の水面がプルン、とふるえる。

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 イイですねぇ。

 自分の気持ちを押し隠して好きな人の幸せを祝福する清水屋に、チョイは自分を重ねようとします。メチャ王子に想いを寄せる自分も、彼の幸せを祝福できる人間でありたい。その思いが、シリーズ最後のたまこの妃騒動につながっていきます。

 ホームシックのチョイに、波の音の入ったレコードをわざわざ探してきて、聴かせてくれるたまこ。

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 こんな優しい人が王子の相手だったら、自分も祝福できるのではないか?というチョイの無意識の願望が、たまこを妃候補に仕立てあげていく。シリーズの最後にむけての、感情的な伏線になっていました。

 

◯むすび

 人と人とのあいだを「とりもつ」デラ*2の通信機能が壊れたことによって、チョイが商店街に呼び寄せられる。通信を介さないリアルの交流がはじまるということで、物語の仕掛け的な部分では、デラさん本領発揮の大活躍回でした。いっぽうで、たまやに世話になっている恩を仇で返すような言動で評判を落とした回でもありましたけど。

 第5話からはじまった「転換期(その①)」も今回で終了。この5・6・7話は夏のお話でしたが、季節が秋に移る次回からは、商店街の魅力をふたたび内側から語る「安定期(その②)」に入っていきます。

 作中の季節が1年にまたがっているアニメって、シーズンごとにちょっとずつ大切に観返す楽しみがあっていいですね。

                    ◯

●おまけ

 京アニ、というか山田尚子監督がらみの作品での「足演出」はおなじみですが、この部活シーンの3人娘。これってどういう意図?とよくよく見たら、真ん中のたまこの影が「うさぎ」の形になってたんですね。

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(左右とも第7話より)

 そういう小ネタであったか。誰の仕込みなんでしょうね。今まで気付かなかった…不覚。

 

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*1:たとえば第4話のお祭りの日には、史織はみどり・かんなよりも先にたまこと合流し、そしてみどり・かんなよりも先に帰る。第6話では、たまこ・みどり・かんなの商店街のお化け屋敷企画に途中参加する…といった具合に、ところどころでさり気なく「3+1」という関係性が演出されています。あくまでたまこを介してみどりやかんなとつながっている史織、という構図。

*2:関連記事 → 『たまこまーけっと』を振り返る 序論「結局、デラってなんだったの?」