ねざめ堂

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HMOとかの中の人。『初音ミクオーケストラ』

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 ボーカロイドによるYMOカバーの代表格、「HMOとかの中の人。」による『初音ミクオーケストラ』(2009年)。

 ミクさんの誕生日に便乗して、以前書いた文章を救済です。

 

◯『ア・ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・YMO』?

 自分はYMOの、あまり良いリスナーではなかった。

 リアルタイム世代じゃない、ということもあるだろうけど、それでも坂本龍一のソロに関しては『Beauty』(感想)でハマってからというもの、1st『千のナイフ』までさかのぼって、そこから最新作まで全部おさらいしたぐらい好きなのに、YMOはなぜかいまひとつピンと来なかった。

 それでも初期の有名曲や、中期の明確にラディカルな『BGM』『テクノデリック』などはまだ楽しく聴けていたんだけど、困ったのが後期の『浮気なぼくら』に代表される歌モノ路線。

 『君に、胸キュン。』や『過激な淑女』なんて、もう日本の音楽シーンにたいする悪意のカタマリにしか聴こえなくて、「なにもそこまで “ぼくら、性格悪いです” アピールしなくてもなー」と。

(なにしろ『浮気なぼくら』のキャッチコピーは「憎さあまって可愛さ百倍」である。)

 

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 「キュン♡」って、いやーほんと嫌な奴らですね。

 こういう悪意は嫌いじゃないんだけど(いかにも1980年代っぽいシニカルさ)、同時に、それが前に出過ぎて音楽のジャマをしているような窮屈さもちょっと感じていて、それが後期YMOへの微妙な距離感につながっていたのだ。

 ところがある日、ネットでHMOバージョンの『君に、胸キュン。』や『過激な淑女』を聴いて、軽くショックをうけてしまった。

 あれ?これってこんなに楽しいメロディーの曲だったっけ?

 

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 どうやらミクさんが歌うことで「悪意」が解除されて、楽曲の良さがストレートに入ってきたみたいなのである(『まりあ†ほりっく』は見てなかったのです)。

 もちろん、毒気のなさを物足りなく感じる向きもあるだろうけど、そうした周辺情報をとっぱらっても、ポップ・ミュージックとしてこんなに魅力的な曲だったんだなー…というのはとにかく新鮮な驚きだった。

 それからYMOのオリジナルに戻ってみると、「いままで自分は何を聴いていたんだ?」というぐらいの印象の変わりよう。YMOに詳しくないのに、いや、詳しくないからこそ、YMOというバンドのイメージに勝手にがんじがらめになっていたんだなあ、と。

 おかげで、『浮気なぼくら』や『サーヴィス』がすごく優れたポップ・アルバムだということに気付くことができた。

 YMOのように自意識の希薄な音楽とボーカロイドは、相性が良い。

 「歌モノ」なので、一応「うた」を中心に曲が構成されているんだけど、そこにミクの徹底してニュートラルな声がのることで、曲の中心が一種の真空状態になる。

 でも可愛い女の子の声なので、印象はあくまでもポップ、というバランスが面白い。おっさんたちが「キュン♡」とやるのとはまた違った、巧まざる過激さ...というか。

 もちろんカバーしたミュージシャンの持ち味はアレンジの部分に出ていて、このアルバムはボーカル曲もインストも、徹底して「メロディの良さ・ポップさ・元気さ」を前面に押しだしたものになっている。

 YMOの楽曲を使った、パーティ・アルバムといっても良いかもしれない(散開ライブをイメージして制作されたようだ)。勢い重視のアレンジは、ときにやや一本調子な感じもするけど、それを補って余りある楽しさ満載。

 「YMOってちょっと興味あるけど、いまいちつかみ所が無い…」と思っている方は、まずはこのアルバムでポップ・ミュージックとしてのYMOの魅力を確認して、それから本家に戻ってみると、発見があるかもしれません。

 

                       ◯

 

 私的ベスト・トラック。ジャケット素晴らしいです。

 

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 こちらは2012年のアルバム『増殖気味 X≒MULTIPLIES』のボーナス・トラック『体操』。原曲にはシニカルな悪意が漲っていたけど、ミクのフラットな声で「ケイレン ケイレン」と連呼されるこっちのバージョンにも別種の迫力が。

 


初音ミク【HMOとかの中の人。(PAw Lab.)】体操 - Hatsune Miku Orchestra ...