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『たまこまーけっと』を振り返る 第4話

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 今日、4月19日(日曜)の深夜0時から、WOWOWで『たまこまーけっと』第1〜6話が放映(7〜12話は翌週放映)。

たまこまーけっと|アニメ|WOWOWオンライン

  そして4月29日(水・祝)には、『たまこラブストーリー』がテレビ初放映。

たまこラブストーリー|映画|WOWOWオンライン

 観られる環境の方はぜひ。家はWOWOW入ってないので円盤で観ます...。

                        ◯

 今回は第4話の感想です。『たまこまーけっと』シリーズ通してのネタバレがありますので、ご注意ください。

 

◯第4話『小さな恋、咲いちゃった』

 脚本:花田十輝
 絵コンテ・演出:北之原考將
 作画監督池田昌子


 第4話では、「祭り」と「恋」というふたつのイベントをベースに、あんこをめぐるふたつのストーリーが描かれました。

・「祭り」と亡き母の記憶にまつわるストーリー
・「恋」を通して、あんこというキャラクターを掘り下げていくストーリー

 このふたつのストーリーラインが、上手いこと縒り合わせられて1本にまとめられていた第4話。あんこの恋がらみの話として、また、それ以外のさまざまな要素についても、いろいろと第9話(『歌っちゃうんだ、恋の歌』)につながっていくエピソードでもありました。

 では、まずは祭りと母・ひなこの記憶にまつわるストーリーのほうから振り返っていきます。

 

◯あんこの不機嫌

 アバンで、幼いころに母と過ごした、楽しかった祭りの記憶(夢)が描かれてからのAパート。

 深刻になりすぎない演出のトーンでオブラートに包まれてはいますけど、あんこの態度がいつもよりも刺々しいです。「あんこじゃなくて、アンって呼んで!」も普段以上に連発しますし、デラに対しても「あんたさ、バカでしょ?」と、いつも以上に攻撃的。姉のたまこについても「ホントになにも考えてないんだから」なんてコメントをして、デラにたしなめられます。

 そして、町内会で新調したハッピを嬉しそうに見せびらかし「あんこのもあるよ。着てみる?」というたまこに対して、

 

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あんこ「アンだってば!もう学校行かなきゃだから、いい」
副  「あんこは祭りは嫌いか?」
あんこ「嫌いじゃないけど…」


 あれ?という表情をみせるたまこ。でも、ここではまだ、あんこの不機嫌の原因には思い至りません。

 ひなこが亡くなったのは、たまこが小学5年生のとき。この姉妹は6歳差なので、あんこは4~5歳のころに母を亡くしたことになります。

 祭りでのひなこの記憶は、あんこにとっては数少ない「母との楽しい思い出」なのかもしれません。それで逆に、母のいない現在の寂しさを際だたせる祭りに苛立っているようなのですが、そんなこととは知らないたまこは、近づいてくる祭りに浮かれムード。

 もちろんこれまでの記事にも書いてきたように、たまこにとっては「日常の基盤」である商店街が盛り上がることがなによりも嬉しくて、彼女がそんな風に「日常」を大切にするようになったのは、やはりひなこの死がきっかけになっています(関連記事『たまこまーけっと』を振り返る 序論)。

 母に対する同じような想いが、姉妹のあいだで正反対のあらわれ方をしているんですね。そんなたまこの態度が、あんこには「何も考えてない」ように映ってしまう。このあたり『けいおん!』の平沢姉妹とはずいぶん違います。

 前回、第3話の感想でも引用した、山田監督の発言。SF評論家・書評家の牧眞司、15年2月11日のツイートから。

 

HTTはピッタリと気が合っていて誰かがボケたら誰かがツッこむ関係がごく自然にできている。それに対して、たまこたちは底ではつながってるけれど隙間がある。その湿度をしっかり描こうと思っていました。

 

 『たまこまーけっと』では、友達関係と同様に、姉妹のあいだにも「隙間」があることが描かれています。

 

◯「母の視点」の体験

 母恋しさに由来するあんこの「祭り嫌い」は、母の視点から祭りを追体験することで解消されました。

 祭りの行列に参加する稚児に、過去の自分を重ねあわせるあんこ。ここでのあんこは、母の視点から、過去の自分を見守っているようにも映ります。

 

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(左が過去、右が現在)

 

 そして稚児の世話をしているときに一瞬だけ浮かべる、この複雑な表情が良いです。あんこがどんな気持ちなのか、さまざまな解釈ができる表現。

 

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 母にとって娘の自分と過ごしたあのお祭りは、良い思い出だっただろうか?とか、あれから流れてしまった時間の長さだとか、やっぱり残された子としての寂しさだったりとか。

 いろいろなことを考え、感じていそうな表情なんですけど、セリフやモノローグで「この子はいま、こんな気持ちですよ」という説明をしないことで、観る側に想像の余地が残されて、作品が豊かになっています。

 

「脱いでもいい?」
「こんなに可愛いのに?」

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(左が過去、右が現在)

 

 このあとひなこが口にした「あんこ姫」は、第2話(感想)でたまこがあんこの寝顔に呼びかけたセリフですね。

 この回想シーンを先に見せておいてから、たまこに「あんこ姫」と言わせれば「たまこがどれだけ母を慕い、母のような人になりたがっているか」という点がわかりやすくなるんですけど、あえてそれをやらない。たまこに関する、こうした「文脈の後だし」の多用も『たまこまーけっと』の特徴のひとつです。

 そして、恋の相手である柚季たちとの約束をすっぽかしてまで、寂しがる稚児の行列を見守ってあげるあんこ。この子も、何らかの事情で保護者が祭りに参加できなかったのでしょうか。あんこは寂しがる稚児の姿に、こんどは現在の自分を重ねている、というふうにもとれますね。

 

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 寂しがる稚児に自分と同じような「楽しい祭りの思い出」をあげて、笑顔で見送ることで、あんこは母・ひなこの「見守る」視点から、いまの寂しい自分を受け入れることができたのかも知れません。

 このあと、祭りに盛り上がるたまこたちへの視線は、当初の醒めたものから優しいものへと変化していきます。

 

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◯あんこのキャライメージ

 ここからは、第4話のもう一本のストーリーライン、「恋」を通しての、あんこというキャラクターの掘り下げについて見ていきます。

 第1話から、あんこはたまことは対照的に、洋風の華やかなイメージを好む、見映えを気にする女の子として描かれてきました。「あんこじゃなくてアンって呼んで!」をくり返し、家業についても「うちはどうしてもち屋なんだろう?」と否定的だったあんこ。

  第3話で史織が家にきたときも、(ドキドキしながらおもちを出したたまことは対照的に)プリンをすすめてみたり、晩ご飯には、たまこの「焼き魚とコロッケ」というメニュー案を却下、史織といっしょに洋風メニューを作っていました。

 

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たまこ「おしゃれすぎてまぶしいよー」

 

 いまどきカルボナーラを「まぶしい」と言ってしまう北白川たまこさん(現役JK)。あんことはいろいろ対照的です。

 部屋の内装も、たまこの部屋よりも洋風なあんこは、もち屋という和風の家業について「地味」という不満があるのかもしれません。


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 意外と『RICECAKE Oh!ZEE』の店構えに憧れてたりして。

 これは小学校高学年の女の子としては普通の感性というか、この年頃で「和のワビサビが」とか言ってる方が珍しいですけど、ここで大事なのは、第4話までの描写の積み重ねによって、あんこが「華やかな見映えに惹かれる女の子」である、というイメージが形成されてきた、というところ。

 さまざまな点でたまこと正反対のあんこは、商店街の人々の好意も素直に受けとれません。これから学校なのに、いろんな食べ物を山盛りもらってしまって困惑するあんこ(いや、これは困る)。

 そして、その姿をクラスの男の子に見られそうになって、慌てて隠れる。好きな男の子に、おからやらシラスやら抱えた姿を見られたくない、という乙女心です。

 

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◯ミスリード

 こんな風に、見映え、見てくれに敏感なあんこだけど、でもじつは好きな男の子は手前のイケメンじゃなくて、奥の優しそうな雰囲気の柚季のほうだった、というオチの第4話。

 見てくれに関してこだわりは強いけど、ちゃんとそれ以外の部分も掴んでいる子ですよ、というキャラクターの掘り下げエピソードになっていたんですが、それを表現する方法としてミスリードを活用していたのが面白かったです。

 たとえば「イケメンだけど意地悪な子」と「かっこ良くないけど優しい子」をあらかじめ対比させておいて、どっちを選ぶか?によってキャラクターを説明する、というのは正攻法。ディズニー版『美女と野獣』(アラン・メンケンの音楽が最高!)で、イケメンのガストンではなく野獣のほうを選ぶベルの人柄、みたいなことですね。

 でも、この第4話ではそのような手法はとらずに(『たまこまーけっと』の作風的にとれなかった、という事情もあると思いますけど)、イケメン君を「悪者キャラ」に仕立てあげることなく、ストーリーの構成によって「柚季のほうに惹かれるあんこの人柄を際だたせる」ということをやっている。

 視聴者に「これまで描かれたあんこのキャラ的に、好きなのはイケメンの方だろう」というミスリードを誘っておいて、後で逆転させるというストーリーの構成自体に意味が発生しているんですね。

 このテクニックは「なるほど、そういう手もあるのかー」と感心してしまいました。ちょっとしたことなんだけど、技あり!という感じ。作中では、みどりとかんなが「あんこの好きな相手」を取り違えていたキャラクターとして、視聴者と目線を共有していました。

 

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みどり「え、あんこ、こっちの子?」

かんな「みたい」
たまこ「え、なにが?」
みどり「あー…えーっと、あんこってすっごく良い子だよね」


 みどりに同意です。


◯頼りない年長組① たまこ

 皆が納得する中、ひとり「なにが?」とボケボケだったたまこさん。

 この話では、あんこを軸としたメインストーリーの横で、周囲の年長メンバー、たまこともち蔵の「ちょっと頼りない感じ」もサブエピソード的に描かれていました。

 まずはたまこ。今回たまこは、あんこの屈託について何もしてあげられませんでしたよね。ほとんどお祭り(=「日常の維持」テーマに関連)にかかりきりでした。

 そんなたまこですが、あんこの悩みを察した?というシーンは描かれます。朝のシーンにつづいて、たまこがあんこにハッピを見せびらかすシーン。「ぜんぜん興味ない」と不機嫌なあんこにたいして、

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「あんこ、お祭りきらいだっけ?」

「お祭りなんて、ただ忙しいだけだよ。昔は…なんでもない」

「…そっか」

 
 「昔は...」と寝返りをうったあんこの態度に、ちょっとだけ「あ」という顔をするんですね。

 ひょっとしたら、ここであんこの気持ちを察した「かもしれない」たまこなんですが、でもここでは何もできない*1。何もできないのも仕方なくて、何をいったところでひなこがいない、という現在の事実は変わりません。余計な慰めを言わずにそっとしておく、という態度は、誠実さのひとつの現れともとれるんですが。

 ここでちょっと先回りをすると、第9話では、たまこは姉としてあんこをフォローしてあげていました。

 第9話のたまこは、柚季を好きなあんこの気持ちを把握しているようで(これはたぶん、第4話のあとでみどり達に諭されたんだと思うんですけど)、引っ越ししていく柚季を、あんこが見送るきっかけをさりげなく作ってあげていました。

 

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 ここのたまこは、すごく「お姉さん」してますね。第4話ではあんこに何もしてあげられなかったたまこの雪辱(?)が果たされる第9話。

 そして、第4話でさんざん「好きでおもち屋の娘に生まれたわけじゃない」といっていたあんこが、その家業のおかげで再び柚季に会う約束ができる、という点でも、第4話は第9話の「タメ」というか「前編」的な性格を備えたエピソードでした。


◯頼りない年長組② もち蔵

 そしてもち蔵。第4話の彼は「見てくれ重視なようでいて、じつは本質もちゃんと掴んでいるあんこ」と対比させられるように、「見てくれの良さを追求した結果失敗する」という損な役回りを担当していました。

 お祭りでの御神輿のシーン、気合いをいれるもち蔵。「一緒にもち作ることはできなかったけど、せめて神輿姿をたまこに…!」と頑張ったんですけど、残念ながらあえなくリタイア。情けない姿をたまこ達に見られてしまいます。

 

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かんな「背中のうさぎが泣いてるよ」

みどり「情けないねぇ」

 こんなもち蔵も、第9話ではあんこの恋を親身にフォローしてあげる良いお兄さんっぷりを発揮。たまこにお礼を言われます。

 

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「もち蔵、ありがとね」

 

 無事、第4話の汚名返上。良かったね。もち蔵って泣けてくるぐらい良いヤツで、すごく好きなキャラです。

 

◯むすび 

 母を亡くしたあんこの寂しさの一端に触れていた第4話でしたが、いっぽうでたまこの気持ちについては、やっぱりわかりやすい形では説明されませんでした。

 凄かったのが、アバンで描かれた、ひなこ存命時の祭りの思い出。ひなことあんこ、たまことあんこの交流はあるんだけど、たまことひなこは、会話はおろか目線すら一度も合わせないんですね。

 

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 あんこの記憶(夢)のシーンだからあんこが中心になっている、という事情はあるにせよ、ここまでやるか!?と。

 たまこが「日常の維持」を頑張るようになったきっかけは「大好きだったひなこの死」なのに、でも二人の交流シーンについては、異様な感じがするぐらい徹底して排除する。これは、豆大とひなこの関係が描かれる第9話でも同様です。

 あんこと豆大に関しては、それぞれひなことの交流シーンをちゃんと描くのに、主人公のたまこだけは、そのような描写が一切ない。作品を「大好きな母を亡くした主人公の少女が、健気にがんばる物語」という、わかりやすいラインには絶対にもっていかないぞ、という執念。

 (それをやってしまうと、『たまこまーけっと』が表現したい他のテーマが食われてしまう、ということについては「序論」に書きました。)

 たまこだって、第4話のあんこ同様に寂しくなることもあるはずなんですが、でもそこはあからさまには見せない。これまでの記事でも何度か引用した、山田監督のインタビュー。

 

ーー:監督の作品が描くのはハッピーな世界だけど、この子たちも膝を抱えてないわけじゃないっていう。

山田:ああ、絶対抱えてるんですよ(笑)

ーー:だけど、わざわざそこは描かなくてもいいんじゃないかと。

山田:そうですね、うん。そこを見せないと共感してもらえないような作品にはしたくないんですよね。みんな絶対に孤独な時間があって、孤独な思いをしてて。もうどうしようもできないぐらいの時もあると思うんですけどね、それを見せたがる主人公ではあってほしくなくて。

 

山田尚子インタビュー 『Cut』2013年2月号)

 

 第4話のあんこの寂しさ(膝を抱えてる感じ)も、かなり抑制の効いた描き方がされていたと思うんですが、主人公のたまこについては、そこがさらに徹底されています。

 

山田:(...)イメージとしては地表の下にマグマがずーっとある感じです。そういう感覚がずっとあって、心をめぐっています。その地熱が伝わるようにっていう。

ーー:マグマをそのまま見せて「熱そうでしょ?」って言うのじゃ意味ないよっていう。

山田:うん、そう思いますね。

 

山田尚子インタビュー 『Cut』2013年2月号)


 結局、たまことひなこの交流シーンは、テレビシリーズとはテーマの違う『たまこラブストーリー』でようやく解禁されることになります。

 

                      ◯


 第2.5話の記事にのせた、『たまこまーけっと』という作品が物語を切り取る「視点」を表した図。これを第4話にあてはめると、こんな感じでしょうか。

 

 

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 あんこの「祭り」をめぐる「母の記憶」の物語と、たまこの「母の記憶」に起因する「日常の基盤=商店街」の維持への意思。そして、そのあらわれとしての「祭り」への過剰なまでののめり込み。

 カメラはあくまでも「あんこたちサイド」、上層から物語を切り取っているんだけど、その下にはたまこの物語=「マグマ」が流れていて、その地熱が上層にじんわりと伝わっていく。

 第4話もこのような『たまこまーけっと』の基本構造を踏襲したエピソードになっていましたが、あんこの物語のほうにかなり強くスポットがあてられていたぶん、たまこの発する「地熱」の存在感は薄めになっていました(このあたりが、ストーリーの重層性が際だつ第2話や第9話とのバランスの違い)。

 でもそのおかげで、あんこというキャラクターの魅力は存分に表現されていましたね。年長組ががんばる第9話とセットで、とても好きなエピソードでした。
 

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*1:ここでたまこの表情をアップにして彼女の感情を「説明」しないのも、物語を捉える「視点」が主人公のたまこよりも、むしろ周囲のサブキャラクターに向いている『たまこまーけっと』の特徴的な点です。関連記事→ 第2.5話 ~ 作品の視点の特異さについて