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ねざめ堂

アニメ・映画・音楽

ダイ・ハード老人に戦慄する ~『ザ・シークレット・サービス』感想

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 先日の深夜に地元のテレビ局で放映されていたから…というローカルな理由で、『ザ・シークレット・サービス』(1993年 ウォルフガング・ペーターゼン監督 クリント・イーストウッド主演)*1のネタバレ感想です。

 ペーターゼン監督の映画って、超大作になると大味すぎて「?」な部分も出てくるんだけど、これは面白かったです。話のスケール感が丁度良かったのかも。

 

◯『ザ・シークレット・サービス』感想


▶︎映画には、時代から取り残された二人の男が登場する。ひとりは、かつて凄腕のシークレット・サービスだったが、J.F.ケネディ大統領の暗殺を阻止することができず、いまだにその失意を引きずり、自滅的な生活を送る主人公(クリント・イーストウッド)。

▶︎彼には「自分がJFKを守れなかったために、アメリカは間違った方向に進んでしまったのではないか?」という後悔がある。ルート分岐点で選択ミスをした結果、自分たちは本来の「あるべき世界」とは違った「パラレルワールド」に含まれているのではないか、という『1Q84』的違和感。

▶︎そしてもうひとりは、ジョン・マルコヴィッチ演じる元・政府の暗殺エージェント。彼もまた殺し屋として凄腕の持ち主だが、東西冷戦の終結によってお払い箱になってしまう。

▶︎彼は、自分を殺人マシーンに仕立てたあげくにポイ捨てした政府に恨みをいだく。それまでシステムの優秀な歯車として機能していた彼は、自らの拠りどころだった冷戦という「大きな物語」の終焉に適応できずに、苛立っている。

▶︎イーストウッドもマルコヴィッチも、「守ること」「殺すこと」を通じて、ともに政治システムを安定させる仕事に身を捧げていたが、そのシステム構造のドラスティックな変化から取り残されてしまった、というお膳立て。

▶︎「世界は間違った方向に進んでしまった」という感覚を共有する「同類の臭い」を嗅ぎ付け、マルコヴィッチはイーストウッドに執着する(JFKと冷戦、という政治的絡みもあり)。劇中で日本的な「滅びの美学」を賞賛するマルコヴィッチは、大統領を暗殺して自らも潔く散ることを決意し、イーストウッドに「俺が大統領を殺すか、お前が守れるかゲームをしよう」ともちかける。

▶︎そのように、マルコヴィッチが「ルートの選択を誤った世界」を拒絶し、自らの輝いた時代の終焉に殉ずる決意をする一方で、映画のスタート時には自滅的で投げやりな行動をとっていたイーストウッドは、マルコヴィッチとの対決のなかで生への執着をみせていく。

▶︎たとえば、マルコヴィッチを追ってイーストウッドがビルの屋上を疾走するシーン。おお、70年代アクション!と観る者を一瞬興奮させるも、ビルの谷間を飛び越えそこなったイーストウッドは、無様に着地に失敗する。非神話的な90年代。

▶︎その結果、マルコヴィッチを撃てば自分も死ぬが「大統領を守る」任務は完遂できる、というシチュエーションに追い込まれたイーストウッドは、しかし死への恐怖から撃つことができず、そうこうしているうちに若い部下が巻き添えを食って死んでしまう。

▶︎あっけなく命をおとす若者と、生き残る老人。ここで、映画が古典的な「老人から若者への継承物語」に着地する可能性があっさり否定される。『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)といいこの映画といい、イーストウッドにこういう「しぶとい老人」を演じられると説得力がありすぎて困るんだよな。

▶︎しかしその後もイーストウッドの「しぶとさ」は加速。「間違った世界を否定して潔く死んでやる」というマルコヴィッチの美学を足蹴にして生き残り、セクシーな恋人もちゃっかりゲット。映画のラストでは、自室の留守電に残された過去の亡霊のようなマルコヴィッチからの伝言を終いまで聞かずに、「あーやだやだ」という感じで恋人とともに部屋を後にする。

▶︎過去に囚われていた男が、自分よりもさらに過去に固執し「今」を拒絶する男をブチ殺すことで解放される。「殉ずるべき大義」も「大きな物語」もない、JFKも、アンチ・ヒーローとしてのハリー・キャラハンすらも存在し得ない90年代だけど、しぶとく生き延びてエンジョイしてやるぜ!という映画。

▶︎だから、恋人役のレネ・ルッソが、イーストウッドよりもかなり年下なのは、若い彼女ゲットしたぜという「エンジョイ感」を演出するにあたって重要なのだ!

▶︎なんといっても、イーストウッドの肉体性が凄い。でっかいリボルバーを自分の腕みたいに振り回して、殴る動作の延長みたいにブッぱなすシーンのかっこよさ、スクリーン映えの見事さ。「ジェイソン・ボーン以降」のリアル路線のアクションとは違った華があって(リアル路線も好きだけど)、「そりゃ生き残るよな」という説得力満々。

▶︎老人つええ…とおののきつつ、映画のなかで生き残れなかった下の世代としては、それでもこっちはこっちで淡々とやっていくべさ…と思った年の瀬でした。とはいえ、もうさほど若くもない自分としては、最近こんな気分ですけど ↓ 

 


"I'm Too Old For This Shit": The Movie Supercut