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可児江西也と千斗いすずは「バディ」になれるのか 〜『甘城ブリリアントパーク』感想

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 『甘城ブリリアントパーク』前半終了なので、第1〜6話通しての感想を。ネタバレ注意です。

 

 第3話までは、パークの全体的・外面的な窮状がメインに描かれていた『甘ブリ』ですが、第4話(感想 )・第6話と、ヒロイン・千斗いすずの心情にフォーカスしたエピソードが出てきていて、こちらの要素も面白い。西也へのもやもやした気持に戸惑ういすずさん、かわいいです。

 はっきりしてきたのは、西也といすずがある意味で「似た者同士」だということですよね。両者とも美形・ハイスペック・でも「周囲の期待に応えられなかった」という挫折経験あり、くわえてコミュ障(西也は、学校ではいつも「ぼっち飯」。いすずも、パークの食堂でいつも「ぼっち飯」なことをマカロンに指摘されています)。

 このふたりが似た者同士、「鏡像関係」にあることは、第1話のAパートで予告されていました。西也がガラスに映った自分のルックスにうっとりしていると、ガラスの向こう側にいすずが表れて、西也の鏡像と重なるという演出。

 

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 ふたりが「鏡像関係」にあること、そして、自閉的にナルシスティックに「自分だけ」を見ていた西也の視界に「他者」が割りこんできたことを示したシーン。

 このような、人間関係を築くのがヘタなふたりがタッグを組んで、パークの再建に挑んでいくという物語が、いまのところの『甘ブリ』…なんですが、似た者同士とはいえ、両者は対等な関係ではありません。

 「パークの再建」という課題に関しては、いすずが西也の「if」、「バッドエンド・バージョン」になっている。

 

◯『甘ブリ/zero』主人公としてのいすず


 いすずは西也の前に1年間「甘ブリ」支配人をつとめて、でも結局パークの再建に失敗しています。軍人なのに、まったく畑違いの仕事を命じられるという、組織のなかの個人の悲愁。

 これ、もし成功していたら、それだけで1本のアニメになる話ですよね。畑違いの分野からきたヒロインが、古参のキャストたちと衝突しながら、パークの再建に成功する。カタルシスありそうです。でも、いすずは失敗した。

 第4話ではっきりと語られたように、『甘ブリ』は、現在の主人公・西也をメインに進行中のストーリーの「ひとつ下の層」に、『甘ブリ/zero』的な、ヒロイン・いすずの1年分の失敗ストーリーが埋まっています。

 そこをあらためて意識しながら、「甘ブリは閉園します」と皆に告知するシーンとか、顔をひきつらせながらも懸命に水着PVの撮影に応じるいすずを見返すと、非常に辛い。

 

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 いすずさん、やっぱりめちゃくちゃ責任を感じてるんですよね。これ、リアルに考えると胃に穴が空きそうな状況です。

 それで、西也を支配人にたてて、自分は秘書を勤めている現在のミッションは、いすずにとってはいわば「ループ2周目」で、いすずはかつての自分よりも仕事をうまくやってのける西也に複雑な感情を抱いてしまう。そういう溜まりにたまった諸々がついに爆発したのが、第4話、必死の形相の「壁ドン」でした。


◯西也・いすず・ラティファのパワーバランスが提示された第4話


 OPアニメに登場する3輪の桜の花。

 これが誰を表わしているのかは今のところ断言できませんが、第4話の本編冒頭で映しだされた桜は、素直に西也・いすず・ラティファと考えて良さそうです。

 

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(※左がOPアニメ、右が第4話アバンの桜)

 

 第4話は、いすずが抱えこんでいた悩みを露わにするという、彼女のヒロインとしての覚醒回でしたが、同時に、桜が象徴するメインキャラ3人の、パワーバランスの提示回でもありました。

 第4話時点での3人の関係性は、いすずは西也に頭があがらず、いっぽうで西也はラティファに頭があがらないというバランスになっていて、でもエピソード終盤ではこのバランスが少し変わってくる。

 いすずがこの先、西也と対等の関係になっていくかも、という可能性が提示されていて、そのあたりが映像で表現されていました*1

 ここからは、画像もあわせて3人のバランスを見ていきたいと思います。


                      ◯


 まずはAパート終盤、「壁ドン」あたりのやりとりから。西也がいすずに「足を引っ張るな」と申し渡すシーン。西也が上から(↙︎)いすずを責め立てます。

 

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 つぎはBパート冒頭、西也とラティファの観覧車のシーン。高所恐怖症を発症した西也が、おもわず前屈み(©トリケン)状態でラティファを見上げる(↗︎)。さきほどのシーンとは逆に、西也がラティファに弱みを見せています。

 

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 このシーンで印象的なのは、ラティファの包容力。「アニメキャラの胸の大きさ=母性の法則」(?)に反して、『甘ブリ』では、微乳のラティファが母性的・「アガペー」系ヒロイン。

 いっぽう乳袋いすずは他者としての異性・「エロス」系ヒロイン、という役割分担な感じです。

 

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 そもそも西也は、第1話の時点からラティファには押されていました。ラティファが西也に「魔法を授ける」シーン。ここでもラティファを見上げるポジションの西也(↖︎)。

 

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 ふたりの身長差からすると、圧倒的に西也がラティファを見下ろす側なはずなんですが、でも実際には逆のシーンが要所要所で挿入されます。このバランスが、ラティファの第一王女としてのオーラからくるのか、はたまた西也が断片的に記憶している過去の体験からきているのかは、いまのところ不明。

 そんな感じで、「ラティファ ↖︎ 西也 ↖︎ いすず」な第4話ですが、終盤に西也といすずの「見上げ、見下ろす関係」は変化します。悩みを告白したいすずに応えて、西也が自分の過去を話すシーン。

 ここではまず、向かいあわずに、同じ方向をむく西也といすずを別々に映すことで、二人の身長差や目線(見上げ、見下ろす関係)が気にならないようなアングルが選択されています。西也が心を開いて、いすずの位置まで降りてきているイメージ。

 

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 つづいて、西也が「オレ様やお前の挫折などくだらん!」という「お芝居」をいすずのために演じる。本当はまだ挫折から立ち直っていないはずの西也が、お芝居(=エンターテインメント)でいすずを勇気づけるという、西也のエンタメにたいする熱い思いも感じるかっこいいシーンです。

 ここの、いすずと西也が同じフレームに収まるカットで、一瞬、ふたりの目線がほぼ同じ高さになるという演出上の嘘がつかれます。

 

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 本来なら西也のこの頭の位置はありえないはずで、実際その直後のカットでは、リアルの身長差が復活しています。実写でやると不自然な、アニメならではの強みを活かした演出。

 

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 ここで一瞬だけ実現した、いすずと西也の目線が等しくなるカットは、いすずの心象を反映したものだといえます。西也にたいして引け目を感じ続けていたいすずが、彼と同じ目線に立つことができたいう、これからのいすずが目指すべきゴール、「理想の状態」。


◯いすずと西也が対等になる可能性


 第4話ラストで、一瞬だけいすずにとっての「理想」が具現化した理由としては、


①緊急事態にさいして、いすずが彼女のもつ能力を十全に発揮できた(そのことで、パークの皆=「他者」に必要とされている、という自己肯定感を得られた)

②西也が一瞬だけ、いすずに心を開いてみせた

 

 の2つがありそうで、これは両方とも「他者」とのコミュニケーションに関係しています。

 支配人時代のいすずは、上から強権的に命令するだけで、キャストとのコミュニケーションが成立していませんでした。とつぜん苦手分野に送り込まれ、どうすればよいのか彼女自身わからなかったのでしょう。

 でも、緊急対策本部を仕切っている(自分のフィールドで、能力を発揮できている)ときの彼女は、周囲とのコミュニケーションがとれていた。この体験以降の彼女が、ミュースや西也と、たどたどしくもメールやラインのやりとりをしている姿が描かれているのが良い感じ。

 さきほど「いすずにとってのループ2周目」みたいな例えを出したので、好きな作品である『ひぐらしのなく頃に』で置き換えてみると(以下ネタバレのため反転)古手梨花がループを繰りかえす中で絶望感に捕われて、心を閉ざしているうちはバッドエンドを回避できず、周囲に協力をあおぐようになってから事態が好転する、という方向性。

 いすずが少しずつ個人的なコミュニケーションの回路を開いていくのと、パークの再生がリンクしていく、というドラマはひとつありそうです。

 

                      ◯


 非常事態にさいして一瞬だけイコールになった西也といすずのパワーバランスは、平常時にはまた元に戻っていて、たとえば第6話終盤の、会議室でのやりとり。


「可児江君、その傲慢一直線の上から目線、どうにかならないの?」
「オレが上にいるのは本当のことだから、仕方がないだろう」

 

 「オレが上にいる」という西也の認識。ただしこのやりとり、座っている西也を、立っているいすずが見下ろす(↘︎)という位置関係で行われているので、第4話のようなマジな切迫感はありません。

 

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 そして、このやりとりのあとで会議室から出たいすずは、微笑んでいます。この自然な微笑みはもちろん、第6話冒頭の「考えすぎて」鏡にむかって上手く笑えないシーンとの対比になっているのですが。

 いっぽうで、第2話の、やはり会議室での西也といすずの会話後のシーンとも対になっています。このときはふたりのコミュニケーションは決裂し、会議室から出た西也は沈みこんでいたことを思うと、ふたりの関係性が着実に前進していますね。

 

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 いまのところ、「パークの再建」ミッションに関しては、西也のほうが上にいるのは間違いなくて。

 このふたりが対等な関係になるには、武本&賀東コンビの前作『氷菓』(賀東さん原作じゃないですけど)の、あの神がかり的な最終話で提示されかけた、奉太郎とえるがそれぞれの得意分野で協力しあっていくという可能性、

 

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 第4話の緊急事態で一瞬実現したような、西也といすずがお互いの得意分野で補いあうという、対等な「バディ」としての共闘体制が確立される必要がありそうです。

 

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 その段階に至るまでをアニメ12話(なのかな?)で描く余裕があるかどうかはちょっとわからないですけど、第4話とは逆に、いすずが西也をひっぱりあげるという展開は見てみたい。

 いすずのドラマに代表されるような、組織のなかの個人のポジションとか、共同体のメンバーから承認されることで得られる自己肯定感とか(自己肯定感や承認欲求は満たし方によっては問題も生じますが、今のいすずのように満たされなさすぎな状態は、やはり辛い)、そのあたりにも注目して、後半を楽しみたいと思います。

 

*1:この回の演出を担当したのは、小川太一(絵コンテは北乃原孝將との共同)。『氷菓』の第19話や、『たまこまーけっと』第3話、第10話、『Free!』(1期)の第3話などなど、数々の傑作エピソードを手掛けています。