ねざめ堂

アニメ・映画・音楽

『響け!ユーフォニアム』第8話の麗奈無双と、キャラクターのネーミングについて

f:id:tentofour:20150523233107j:plain

 ※ネタバレ注意です。

 あらゆる意味で凄かった第8話。

 とくにBパートの麗奈様無双には圧倒されました。いつもはクールで無表情な彼女ですが、「学校の外」「夜」という、作品の「日常」からはちょっとだけ離れたセッティングに「久美子の前」という条件がプラスされると、解き放たれたかのように活き活きとした魅力が爆発。

 

f:id:tentofour:20150529085330j:plainf:id:tentofour:20150529083822j:plain

(左・第5話 右・第8話)

 
 それで、久美子の何が麗奈を活き活きさせるかというと「他者性」「異質性」ですよね。

 上の画像、第5話は久美子が「全国なんてそんな簡単には…」という失言を「また」やらかしたときに、慌てる久美子を尻目に「黄前さんらしいね」と笑うシーン。第8話は「私は本物の特別になる」という宣言のあと、久美子の顔をみて「やっぱり久美子は性格悪い」と笑うシーンの表情です。

 ここ、久美子の表情ははっきりとは映らないけど、おそらく彼女は麗奈の「特別になる」宣言を聞いて、いつものように「そりゃわかるけど、でもねえ…」という懐疑の色を浮かべてしまって、それを見て麗奈は「性格悪い」と笑ったんじゃないかと思うんですね。

 久美子が自分とは違う、どこか醒めた面を持っているからこそ惹かれる(身長の低い麗奈が逆に久美子を見下ろすカットが多いのは、ふたりのテンションの差の表現でしょう)。その前段で語られた「誰かと同じで安心する」=「同質性」を尊ぶ風潮とは真逆の態度です。

 

f:id:tentofour:20150529083919j:plainf:id:tentofour:20150529083922j:plain

 

 自分とは異質な他者に惹かれる、というこのような麗奈の態度は『響け!ユーフォニアム』で描かれる共同体のあり方と一致するところがあって、それはキャラクターの名前のつけ方にも影響を及ぼしている(かもしれない?)、という話を今回は書いてみたいと思います。

 

京都アニメーションの近作について

 まずは京都アニメーションが近作で描いてきた「共同体の形」について、超駆け足でちょっとだけ。

 『響け!ユーフォニアム』のシリーズ演出を手掛ける山田尚子の監督作『けいおん!』(1期・2期・劇場版)のシリーズ後半では、「軽音楽部」が人間関係を学校の部室から外の世界へと広げていくという流れが描かれました。

 共同体の中はガッチリと固い結束をたもったまま、他のバンドなどとの交流を深めていき、その過程で演奏の場所も、学園祭に留まらずに、街のライブハウス、劇場版でのイギリスの野外フェス…と広がっていく。

 続く『日常』(『響け!ユーフォニアム』の監督:石原立也と、シリーズ構成:花田十輝のコンビ)も、共同体同士の関係性を外に広げていく、という流れを意識的に描いています。

 メインキャラの1人であるロボ女子高生「東雲なの」は、原作漫画では第1話から高校に通っているのですが、アニメ版では1クール目は東雲研究所という「(疑似)家族共同体」の中に閉じこめられていて、2クール目から高校に通い出すことで、「学校共同体」と「家族共同体」のメンバー間の交流が生まれていく過程を強調する、という風に、ストーリーが再構成されていました*1

 そして、こちらも山田尚子の監督作『たまこまーけっと』では、これまでの「内部結束の固い共同体同士の交流」から一歩進んで、「商店街共同体」のメンバー入れ替えが行われます。

 結婚して商店街の「外」に出て行く銭湯の娘と、入れ違いに「外」から入ってくる外国人の少女、チョイ*2。共同体の風通しの良さと、いったん「外」に出て行ってもなお途切れない関係性をポジティヴなものとして描いていた作品でした。

 

◯より複雑化した『響け!ユーフォニアム』の共同体

 このテーマの描き方は今回の『響け!ユーフォニアム』でさらに更新されていて、この作品では、同じ共同体に属する他メンバーのもつ「異質性」が強調されています…と回りくどい言い方をしてみましたが、平たくいえば、同じ共同体の中にもソリがあわない相手がいる、ということが描かれていますよね。

 公式サイトのメインキャラクター相関図をみてもらうとわかりやすいですが、吹奏楽部は小さな「担当楽器パート共同体」の集まりとして描かれていて、同じパートのメンバー同士といえども、あちこちに軋轢があります(トランペットパートで麗奈につっかかる吉川優子とか)。

 いっぽう、トランペットパートの「吹部のマドンナ」香織と、サックスパートの晴香部長は、担当パートの枠を超えた友情を育んでいる。

 作中の共同体・人物の関係性が複雑化していて、共同体の「枠」を超えた交流がポジティブな面でもネガティブな面でも行われている。そして同じ共同体に所属しているメンバー同士といえども「同質の者たちの集まり」ではないよ、という点が強調して描かれています。

 

◯キャラクターのネーミングについて

 それで、ここからは、作中で描かれる「異質な者たちの集まりとしての共同体」と、キャラクターのネーミングの関係についての話なのですが、正直これについては「ちょっと苦しいかな?」という部分もある...ので「ファンの深読み」ぐらいな感じでご笑覧いただければ、と思います。

 と言い訳したところで、もう一度さきほどの公式サイトのメインキャラクター相関図を見ていただきたいのですが、これを見て気付くのは、この図のなかに2種類の「公的な共同体」(私的な交友関係とはまた別の)が重なって存在していることです。

 「低音」「サックス」「トランペット」という担当楽器を基準にした3つの共同体と、「1年生」「2年生」「3年生」という、所属する学年を基準にした3つの共同体。学年のほうは、わかりやすく色分けして描かれています。

 (トロンボーンパートからただ一人、塚本秀一も相関図に参加していて、彼も作品の恋愛要素にからんでくる重要キャラですが、今回は共同体テーマについての話ということで話題から外れてもらいます。すまん、秀一。)

 それで、キャラクターのネーミングに関して注目したいのは「学年共同体」のほうです。

 

f:id:tentofour:20150528001958j:plain

 

  各学年共同体は4人のメンバーで構成されていて*3、キャラクターたちの名前には、学年ごとにそれぞれテーマが仕込まれている。でもメンバーのうち1人だけは、そのテーマとは無関係な名前を与えられている、という規則性がみられます。

 まず1年生のテーマは「色」。前久美子は「」、川島輝は「」。ここは「同質」グループですね。そして加藤葉月は、漢字としての「色」は入っていませんが、「葉=緑」「月=黄」というイメージの関連があるということで「中間」のポジション。

 ただひとり、高坂麗奈だけが「色」とは無関係な、1年生グループのなかでは「異質」な名前を与えられています。色彩を持たない高坂麗奈。

 2年生は「川」。中夏紀と吉優子はそのまんま同質グループ。そして「中間」ポジションの長梨子。「瀬」の字は、辞書をひくと一番に「川の流れの浅い・あるいは急なところ」という意味が出て来るので、やはり「川」関連とみていいでしょう。残る後藤卓也のみ「異質」な名前。

 3年生は「香」。ここがちょっと苦しくて、「同質」グループの小笠原晴と中世古織はいいとして、田中あすは「明日香・明香」ベースなら良いのですが、「飛鳥」とか「阿須賀」の可能性もあるので、というか「あすか」は「あすか」じゃね?といわれると返す言葉もないですけど(笑)、これまでの規則性を鑑みて「中間」ポジションということにさせてください。

 それで、第7話で退部してしまった斉藤葵のみ「異質」なネーミングになっている。ひとつの共同体のなかで、名前によって、同質グループから中間の橋渡し的存在を経て、異質な他者へ…というグラデーションが描かれていて、「同質vs.異質」の単純な二項対立にはなっていない、と。

 与えられた名前が共同体のなかで「同質」か「異質」かが、そのままそのキャラクターの作中でのあり方にダイレクトに反映されている、というほどの重い意味ではなくて、作品が描こうとしている「異質な他者の混在する共同体」というテーマを、名前のレベルでもギミック的に表現してみた、ぐらいの感覚でしょうか?


◯むすび

 …という名前ギミック解釈がどう受けとられるかはさておき、『響け!ユーフォニアム』という作品が「異質な他者の混在する共同体」を意識的に描こうとしている、という点は間違いないと思います。京アニはこれまでの作品でも、二項対立(という認識)の克服を描き続けてきましたが、今回さらに一歩進んだ感じ。

 第7話のギスギス感も作品のこのような傾向のあらわれで、3年生の晴香とあすかは、シリーズ当初にそう見えたほどベッタリとした関係じゃなくて、ふたりの間には距離も緊張感もある。でも第8話では一緒にお祭りにいって楽しんだりもするよ、人と人との関係ってそういうものだよね、というあの感じは非常に良かったですね。

 それで、麗奈は久美子を通して他者の「異質性」を作中でいちばん肯定しているキャラで、久美子の異質性に反応して圧倒的に輝きだす。どこか醒めた面をもつ久美子も、自分とは違う麗奈のそのような異質性に惹かれる。

 

f:id:tentofour:20150529084843j:plainf:id:tentofour:20150529084847j:plain

 

 この娘…光るぞ!時代は発光系JK。

 まあ、いっぽうでもうひとりの「異質」吉川リボン優子(ウザかわいい)とはギスギスしてますけど。いや、あれは相手にしていないのか?

 麗奈が、今後1年生グループの他の面々とどう関わってくるのか?という点も楽しみ。しかし、もうシリーズの3分の2が終ってしまったんですね…。すでに最終回到来の予感に怯えております。

 

おまけ記事

 

*1:この構成には、京アニが得意としてきた「日常系」の相対化や、日常と非日常の交錯みたいな『ハルヒ』的意図もあると思いますけど、話がズレてしまうのでここではスルー。

*2:そのほかにも、『たまこまーけっと』ではいろいろと「共同体の枠を超えたつながり」をこだわって描いていましたよ…という点については、当ブログの第3話感想などを読んでいただけると嬉しいです。

*3:50人以上が在籍しているはずの吹奏楽部の全員に、名前と性格づけが付与されているという恐ろしい話がありますが(公式サイト 第二回 スタッフコメント)、そのうちの4人が公式サイトの相関図で「メインキャラクター」として抜き出されているという意図をここでは重視します。