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ねざめ堂

アニメ・映画・音楽

甘城ブリリアントパーク 第4話『秘書が使えない!』感想

アニメ 甘城ブリリアントパーク 京都アニメーション

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 第4話がすごく好きなエピソードだったので、思わず更新。ネタバレ注意です。

 


                      ◯

 


 千斗いすずのキャラクターとしての「覚醒回」だった第4話。描かれたモチーフとしては「適材適所」みたいなことがひとつありました。

 いすずが軍人の家系出身だったことが明らかにされますが、そんなバックボーンをもつ彼女がいきなり「テーマパークの再建」を命じられる、というムチャぶりをされていた。これ、勤め人ならけっこう身につまされるネタではないでしょうか。

 欧米型の雇用(ジョブ型)だと、仕事はあくまで「職務内容」での契約だけど、日本型の雇用(メンバーシップ型)だと、まずは「会社」と契約を結んでから、なんらかの仕事が割り振られる。ぜんぜん違う仕事をやっている部署への異動も普通にある。

 両者はもちろんそれぞれに一長一短で、でも日本では終身雇用制が崩壊してるのに「メンバーシップ型」の形だけが残ってるのはキツいんじゃないかとか、いろいろと世間的に議論はありますが、とにかくいずずは軍人の家系に生まれて、軍人としてのスキルしかないにも関わらず、家(≒組織)から「おまえ、テーマパークの再建やってこいよ」という命令を受けてしまった。

 いやいや、いきなりそれはムリでしょう…でもあるよね!こういうムチャぶり人事。

 第2話、「甘ブリ」がいよいよ潰れる?という話になったときにワニピーが「外に出たらやっていけない!」と泣きだして、それに対してモッフルが「おまえはメンバーシップ型の雇用に甘えて、自分個人の価値を高める努力を怠ってきたんだろうがよ(大意)」なんていう厳しいシーンがありましたけど、そういった「組織と個人」に関するアレコレをけっこうシビアに描いてきてます。

 いすずの場合は、組織のなかでの自分の本来性からの疎外だったりとか、いろいろと「It’s (not) a fairy tale」な作品です。

 

                      ◯

 

 そんな追いこまれた状態で、支配人代行をやっていたいすず。外部からやってきた立場で、古参を含むキャストたちのトップに立って進めたパークの再建は結局かなわず、キャストとの関係は悪化の一途(と本人はおもっていた)。これ、リアルの職場に置き換えてみるとホントきついです。ストレスで身体壊すレベル。1年のあいだ、どれだけ針のむしろ状態だったんだ、千斗いすずよ…。

 西也に助けを求めた第1話で、あくまでもポーカーフェイスだった彼女が内心どんな思いだったか。そして、自身は降格した立場から、後任の西也が超有能に仕事を片付けていくさまをみて、どんな気持ちだったか。もう想像するだけで泣きそう...というか、自分の経験したアレコレを思いだしてちょっと胃が痛いっす。


                      ◯

 

 もうひとつジワリときたのが、寮のいすずの部屋。

 決して豪華とはいえない感じの内装で、おそらくは風呂なし(もしくは共同?)物件なんですよね。そこにバスタブを持ち込んで、流しからホースでお湯を引っ張ってきているという涙ぐましさ(お湯を捨てるときは、逆にホースで汲みだしているんだろうか?)。これだとホントに「風呂」「寝る」ぐらいのスペースしかなさそう。ラティファの部屋との格差もけっこうシビアです(笑)。

 

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 OPでそれぞれの起床~出勤風景が描かれるなかで、朝風呂に入っているところを見ると、いすずはかなり風呂好きの様子。「生活空間を圧迫してでも、好きなときにゆっくりお風呂にはいりたい」という、いままで無表情ゆえに読みにくかった彼女の「普通の女の子」としての一面が垣間見えるカット。

 そしてそんな「普通の女の子」が仕事で傷ついて、暗い部屋でひとりバスタブに浸かる姿は、かなり来るものがありました。

 自分なんかも仕事が一番きつかったときは、いろんなリラックス方法を試してみたりしてて。リラックスのためにやってみてるんだけど、なんかもうすがりつくような必死な感じで、いや、これぜんぜんリラックスできてねーじゃんとか、諸々よみがえってきてまた胃が痛いっす。

 

                      ◯

 

 だからこそ、いすずが感情をむきだしにして西也に迫る壁ドンはよかった。表面的にはおおむねローテンションだったいすずが、様々な葛藤を抱えるキャラクターとして立体的に「立ち上がってきた」感じ。そして緊急事態に遭遇して、彼女の本領、本来のスキルを発揮していく姿は文句なしにカッコよかった。

 西也がいすずに、自分の痛みを告白するシーンもいいですね。ストレスが原因で高所恐怖症を発症してしまったという西也。人気が「落ちる」のをおそれるあまり「高い」ところが怖くなるという、心理的なSOSが症例としてあらわれた感じでしょうか(『思い出のマーニー』の杏奈みたいに、心因性ぜんそくなどになってしまう人もいますよね)。

 そんな感じで色々と抱えこんでいそうな西也が、いすずのために、自分たちの傷を「ありふれたもの」として笑い飛ばしてみせる。やだ、本気でカッコいい…。西也だってまだ高所恐怖症を克服していないわけで、本当はぜんぜんふっきれていないはずなんだけど、でもいすずのために豪快な「演技」をしてみせる。

 第2話、パークの皆の前で悪人を「演じた」ときもそうでしたけど、西也はそのナルシスト傾向とは裏腹に、「自分以外の誰か」のために「演技」してみせるときに、メチャメチャ輝くんですよね。他者=「観客」のために演技することで、彼自身が救われている部分もあるのかも。

 西也は周辺的な事情がキツくて芸能界から脱落したのかもしれないけど、第1話で彼が口にした「エンタメ論」にも表れていたように、「演じること」や「人を楽しませること」には強い思い入れがあるみたいですね。

 最後、パークの皆から拍手を受けたいすずが、この時点ではまだ泣くまでには至らないという、エモくなりすぎない匙加減もお見事。でも西也にむける表情、まなざしは変わっていましたよね。「壁ドン」シーンと構図的に対になっていた「高所恐怖症はもう克服したの?」とたずねるシーン。

 

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 いきなり表情豊かになったわけじゃないんだけど、ここでの彼女はなんの屈託もなく、純粋に西也への関心を向けているのが見てとれて、この「無表情」の描き方はさすがです。第1話から見せていた「無表情」との差。やばい、いすずさんかわいい。

 せっかくいすずがヒロインとして覚醒してきたことでもあるので、ここは西也とのラブコメ展開も期待したいところ。上の2つのシーンの対比では、片方が焦っているときに片方はフラットな反応で、まだ感情が同期していない。このふたりが同じ感情を留保なくおもいきり共有するシーン、見てみたいです。

(もうひとりのヒロインであるラティファは恋愛対象というよりも、観覧車のシーンでは母性的な面が強調されていましたね。エロスとアガペー?)

 メインキャラでありながら、ドラマ的にはどこか脇にまわっているという印象もあったいすずが、一気に「キャラクター」として立ちあがってくるという、これまでの「タメ」からの解放が気持ちよかった第4話。原作者、賀東招二がみずから脚本を手掛けたヒロイン覚醒回だけあって、グッとくるエピソードでした。