ねざめ堂

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『ハウンター』感想:抑圧の連鎖と、その終焉

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 ヴィンチェンゾ・ナタリ監督『ハウンター』(2013年)の感想です。

 近年ではドラマでの活動が目立つナタリにとっての、いまのところ最後の「劇場用映画」(この定義も揺らいでいるのでカギ括弧つき)。
 


Haunter Official Trailer #1 (2013) - Abigail Breslin Movie HD

 

 この監督については、長編デビュー作『キューブ』(1997年)から『スプライス』(2009年)までのキャリアをざっと振り返るような記事を書いたことがあったんですが、今回の記事はその補完という位置づけです。

 

『スプライス』感想:抑圧と反発の連鎖

 
 テーマや物語構成の面において、『ハウンター』はかなりの程度、ナタリの前作『スプライス』と対になる作品として構想されています。

 本文中では両作の対照関係にふれる都合上、『ハウンター』にくわえて『スプライス』のネタバレもしているので、ご了承ください。

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マーティン・スコセッシ:ビジョンの拡大と収縮(前編)

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◯前提:「スコセッシ的物語」の原型

 マーティン・スコセッシは、ギャングやボクサーや救命士や宣教師といったキャラクターたち、あるいはラスベガスやウォール街、19世紀末ニューヨークの社交界といったコミュニティなど、じつに多彩な題材をとりあげて映画を撮ってきた監督です。

 ですがこの監督には、そのキャリアを通じてほぼ一貫して描き続けている物語の原型があって、それは、つぎのようなものです。

 

「ある特定のビジョンが周囲の人間を呑みこみながら拡大していく」

 

 スコセッシは、この原型的な物語をさまざまに変奏しながら ~作曲家がひとつのテーマメロディを基にして、バラエティに豊んだ変奏曲をつくりあげるみたいに~ 映画を撮り続けている監督である…ということができます。

 この記事では以上のような前提をもとに、スコセッシのキャリアをひとつの限定されたアングルから、超・大雑把に振りかえってみよう、という試みをおこなっています。

 結果的に、私家版「ラフ・ガイド・トゥ・マーティン・スコセッシ」みたいな記事になっているかもしれません。前編約15,000字・後編約7,000字と、ブログとしてはちょっと長めですが、カタログっぽい軽めな部分もある記事なので、気楽に読んでいただけたらうれしいです。

 

                    ◯

 

 なにしろ50年以上にわたってコンスタントに映画を撮り続けている監督なので(えらい!)全作品を取りあげることはできなかったんですが、以下の作品については結末を含むネタバレをしています。ご了承ください。

 

マーティン・スコセッシ:『君のような素敵な娘がこんなところで何してるの?』『アリスの恋』『タクシードライバー』『ニューヨーク・ニューヨーク』『レイジング・ブル』『キング・オブ・コメディ』『グッドフェローズ』『アビエイター』『ディパーテッド』『シャッターアイランド』『ヒューゴの不思議な発明』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『沈黙 -サイレンス-

遠藤周作:『沈黙』

村上春樹:『1Q84

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