ねざめ堂

アニメ・映画・音楽

マーティン・スコセッシ:ビジョンの拡大と収縮(前編)

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◯前提:「スコセッシ的物語」の原型

 マーティン・スコセッシは、ギャングやボクサーや救命士や宣教師といったキャラクターたち、あるいはラスベガスやウォール街、19世紀末ニューヨークの社交界といったコミュニティなど、じつに多彩な題材をとりあげて映画を撮ってきた監督です。

 ですがこの監督には、そのキャリアを通じてほぼ一貫して描き続けている物語の原型があって、それは、つぎのようなものです。

 

「ある特定のビジョンが周囲の人間を呑みこみながら拡大していく」

 

 スコセッシは、この原型的な物語をさまざまに変奏しながら ~作曲家がひとつのテーマメロディを基にして、バラエティに豊んだ変奏曲をつくりあげるみたいに~ 映画を撮り続けている監督である…ということができます。

 この記事では以上のような前提をもとに、スコセッシのキャリアをひとつの限定されたアングルから、超・大雑把に振りかえってみよう、という試みをおこなっています。

 結果的に、私家版「ラフ・ガイド・トゥ・マーティン・スコセッシ」みたいな記事になっているかもしれません。前編約15,000字・後編約7,000字と、ブログとしてはちょっと長めですが、カタログっぽい軽めな部分もある記事なので、気楽に読んでいただけたらうれしいです。

 

                    ◯

 

 なにしろ50年以上にわたってコンスタントに映画を撮り続けている監督なので(えらい!)全作品を取りあげることはできなかったんですが、以下の作品については結末を含むネタバレをしています。ご了承ください。

 

マーティン・スコセッシ:『君のような素敵な娘がこんなところで何してるの?』『アリスの恋』『タクシードライバー』『ニューヨーク・ニューヨーク』『レイジング・ブル』『キング・オブ・コメディ』『グッドフェローズ』『アビエイター』『ディパーテッド』『シャッターアイランド』『ヒューゴの不思議な発明』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『沈黙 -サイレンス-

遠藤周作:『沈黙』

村上春樹:『1Q84

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『マザー!』感想:「アロノフスキー的物語」の発展型

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 ダーレン・アロノフスキー監督『マザー!』(2017年)の感想です。

 


mother! movie (2017) - official trailer - paramount pictures

 

 アロノフスキー監督については、長編デビュー作『π』(1998年)から『ノア 約束の船』(2014年)時点までのキャリアをざっと振り返る…という記事を書いたことがあったんですけど、今回の記事はその補完という位置づけです。

 

ダーレン・アロノフスキー:「自分」という地獄

 

 この中で書いたとおり、アロノフスキー監督はすべての作品において「人が ”他者” や ”外部” を遮断して “自分” という檻に自らを閉じ込めたきに出現する地獄」というシチュエーションを描き続けています。

 その内的・自閉的な「地獄」から脱出するか否か…というのが、アロノフスキー的な物語の基本フォーマットになっている。

 最新作『マザー!』はそのフォーマットを踏襲しつつ、さらに一歩前進を試みた野心作で、とっても見応えがありました。以下の本文ではネタバレをしていますので、ご了承ください。 

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